いくら世界のメゾンブランドがジェンダーの垣根を越えたとしても、一般の男の子がレディースの服を当たり前のように着て外に繰り出すのはハードルが高い気がする……。
みんなと同じはイヤ!自由に好きな服を
そこで〝ジェンダーレス男子〟の代表格のひとりである、とまんさんにその疑問を投げかけてみた。彼にとっては、レディースブランドの服を選んだり、メイクを施したりすることは、ごくごく自然のことだったという。
「両親がデザイナーで、小さな頃から人と違う格好をさせられていました。『みんなと同じはおもしろくない』という考え方で、周りの人が着ているキャラクターものの服は一切与えられなかった。子供の頃は、嫌でしたが、いつのまにかそれが当たり前になっていましたね。かといって、いじめられるようなこともなく、友達もみんな、『とまんは、何か違うね!』と受け入れてくれていました」
自らレディースの服を着たり、メイクを始めたのは、高校生の頃。きっかけは韓国アイドルだった。
「元・東方神起のジェジュンが大好きで、同じ場所にピアスを開けたり、格好も真似てコンサートに行ったりしていました。〝男でもキレイにしていいんだ〟というお手本でしたね」
その後、地元・宮城県のモデル事務所にスカウトされ、6年前に上京した。
「読者モデルからスタートしたのですが、正統派の〝モテ線〟を狙う雑誌業界の中では、ボクはちょっと異色で、なかなか仕事の依頼が来ませんでした。それでも、自分のスタイルを貫きたいと思っていたので、好きな服を着ることも、メイクをすることもやめようとは思いませんでした」
そんな彼の風向きが変わってきたのが2015年。〝ジェンダーレス男子〟という言葉が登場し、彼のように細身で、レディースの洋服も着こなし、キレイにメイクをした男の子がメディアで取り上げられるようになったのだ。
「ボク自身は、自分が〝ジェンダーレス男子〟だと思ったことも、なりたいと思ったことも一度もないんです。これから先続けていくかどうかもわからない。けれど、そうカテゴライズされたことによって、メディアに露出する機会が増え、『自分もそんな格好がしたかった』『発信してくれてうれしい!』という声をたくさんいただきました。原宿を中心に自由なファッションを楽しんでいる男の子が増えてきて、それを見たり聞いたりするのは素直にうれしかったですね。僕のしていることで、誰かを自分らしくさせることができたのかな、という実感を持てました」
こうしたリアルジェンダーレス男子の声をふまえ、武蔵大学の千田さんは、こう話す。
「『それでもいいんだ!』と思えるモデルがいるというのは、若者の意識に大きな影響を与えて、また共感も生み出します。男の子がレディースの服を着ていても、メイクをしていても、〝変わった人〟ではなく、『あの子、オシャレじゃん!』、そう導いてくれているのが、まさに〝ジェンダーレス男子〟ではないでしょうか? 実際、SNSのフォロワーも多く、企業やメディアが彼らの発信力に注目しています、そのため一層彼らの存在感が増しています。こうした状況は、日本の社会が成熟してきた証なのかもしれませんね」
特別なことは何もない、ただオシャレを楽しんでいるだけ。令和時代の新しい男性像ともいえる彼らは今後どう変わっていくのか、も注目したい。
「実はコンプレックスだらけ。華奢な体型に合うレディースの服を着ることは、それをカバーする手段でもあるんです」と、とまんさん。
スタイルブックも出版
とまんさんらが大集合した『ジェンダーレス男子。』(双葉社)はスタイルブックとして話題に。彼らを真似したファンが原宿などに出没!
ジェンダーレス男子とフツウの女の子のラブコメディー
漫画の主人公にもなっている。『ジェンダーレス男子に愛されています。』(祥伝社)。
アーティストも注目! サカナクションのニューアルバム『834.194』に収録されている『モス』のMVに、話題のジェンダーレス男子、井手上漠が出演。
取材・文/坂本祥子 撮影/田中一矢
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