細身の体型にレディースブランドの服を身にまとい、色白でメイクもばっちり。そんな男の子がメディアやSNSで話題となっている。その実像とは? そこに社会的背景はあるのか? 気になる〝ジェンダーレス男子〟の実態に迫る。
社会的役割としての男女の差に変化が
そもそも〝ジェンダー〟とはどんな意味なのか。何となく理解しているようで、実は明確に説明できそうもない、そう感じている人は多いだろう。文化学園大学の小川麻衣さんに聞くと、次のように簡潔に解説してくれた。
「ジェンダーとは、男か、女か、単に生物学的な差異のことではありません。社会や文化が作り上げた性役割を指しており、いわゆる、男らしさや女らしさといった概念。つまり〝ジェンダーレス〟とは、その社会的役割としての境界が限りなく低い、寛容なもの、ことの考え方だといえます」
〝男性は働きに出て家計を支える一家の大黒柱、女性は結婚をしたら家庭に入って家を守る〟という概念が、日本の一般的な男女のあり方として成り立ってきたことは、誰もが知るところだ。それが今なお、根強く残っているのも事実。
しかし、男女雇用機会均等法の施行により女性の社会進出が進み、その概念が多様化したことが〝ジェンダーレス男子〟の登場に関わっているのではないかと、武蔵大学の千田有紀さんは話す。
「終身雇用が崩壊しつつある今、日本でも〝家族を養うのは男だけではない〟という考え方が当たり前になりつつある。実際、女性の社会進出が進み、未婚率も増加する流れの中で、90年代後半には、結婚している家庭の共働きの割合が専業主婦世帯を上回るようになった(グラフ参照)。既存の男らしさ、女らしさにとらわれない生き方、働き方が広まる中で〝男だからこうあらねばならない〟という考えが自然に崩れたことが、ファッションもメイクにおいてもボーダーレスになったきっかけといえるのではないでしょうか」
この意見に対し、前出の小川さんはファッション学の観点から、こう補足する。
「衣服は、ひと目で男性か、女性かを判断できる記号的な役割を担ってきました。一番わかりやすいのがスーツ。スーツはもともと男性のもので、バブル時代は、肩パッドが入った、身幅が広いデザインが主流でした。その流れを変えたのが、2000年代初頭に登場した『ディオール オム』です」
当時のデザイナーであるエディ・スリマンが、それまでのスーツの常識を覆す細身のデザインをコレクションで発表し、話題を呼んだ。
「ファッション界の重鎮、カール・ラガーフェルドでさえ、そのスーツを着たいがために何十kgもダイエットしたといわれています。広い肩幅、厚い胸板といった〝男性=筋肉質〟といったイメージは覆され、ファッションにジェンダーレスの波が押し寄せたきっかけとなった出来事となったのではないでしょうか」
1980年代から現在まで、結婚世帯における共働き率を示す。1900年代後半に専業主婦世帯を上回り、男性が大黒柱という肖像が崩れた。
ジェンダーレス男子の特徴
美意識が高い
毎日のスキンケアやメイクは当たり前。ヒゲなどのムダ毛の永久脱毛をしている子も多い。
流行を追わない
洋服もメイクもトレンドや人目に左右されず、自分がその時に取り入れたいものにこだわる。
レディースの服も着こなす
スカートや厚底靴、ヒール靴など、女性的なファッションアイテムも積極的に取り入れる。
普通にイケメン
タレントや俳優として活動をする人も多く、普通に二枚目。アイドル感覚でファンになる女性も多い。