利便性に優れた「ワイヤレスイヤホン」が主流になりつつある今、「音質は二の次」と考える方も少なくない。しかし、一度でも高音質のワイヤード(有線)イヤホンを使用してみると、ワイヤレスイヤホンには戻れなくなる。何を隠そう、筆者もその一人だ。
ある日、秋葉原のeイヤホンを訪れた筆者は、およそ1時間半かけてじっくりと各イヤホンを視聴。そして、今回紹介する「intime(アンティーム)碧 -SORA Light-」と出会った。ハイレゾ対応でありながら、その価格はなんと3,999円(税込)。同価格帯の他のイヤホンとは、明らかにレベルが違った。
本記事では、筆者が実際に足を使い見つけ出した高コスパイヤホン「intime」を作る、オーツェイド株式会社の渡部嘉之社長に直接伺った開発秘話と、筆者のおすすめモデルを紹介する。イヤホン好きの方はもちろん、なかなか自分に合ったイヤホンが見つからない”イヤホン難民”の方も、ぜひ参考にしてほしい。
intimeは「若い世代の耳」を救うために開発された
intimeを作るオーツェイド株式会社は、群馬県高崎市にある。人生最大の高コスパイヤホンに出会い、興奮冷めやらぬ筆者は早速、渡部社長に開発に至るまでの経緯やその音質の秘密を伺った。
――元々は「息子さんのために作られたイヤホン」だとホームページで拝見しました。intimeの開発に至るまでの経緯を教えてください。
渡部:私自身、学生時代に高級オーディオを趣味にしていた者の一人です。その当時、そういった「良い音」に触れていた世代が、現在の日本のオーディオの確固たる地位を作り上げたと言っても過言ではありません。
ところが、当時高校生だった私の息子達は「100均のイヤホン」を日常的に使用していたんです。「これで十分」だと。しかも学生は経済的な余裕もないですからね。なかなか「音質の良いイヤホン」を手にできない。
「彼らがこのまま育ったら、日本の未来のオーディオはどうなるんだ!」と危機感を感じ、一念発起しました。自作イヤホンを息子の為に「intime碧(そら)」を作り上げたんです。
――なるほど、若い人の間には「使えればいい」という感覚があるんですね。たしかに、若い世代の方は、高価なイヤホンはなかなか買えませんよね。
渡部:そうですね。若い世代のリスナーに「より良い音」に触れる環境を作ってあげるのが、我々の使命だと思っています。intimeのコンセプトである「良い音を日常に」は、そういう意味合いも含んでいるんです。目指したのは、「ハイレゾ界のユニクロ」ですね。(笑)
さらに言えば「日本のもの作りの未来」「日本のオーディオの未来」を考えるとき、今の若年層の意識やスキルの向上は不可欠です。そのためには、「手頃な価格で高音質」なイヤホンである必要があります。この価格なら、きっと手に取りやすいだろうなと考えました。
――たしかに、若い方の「基礎聴力」を上げることは、今後の日本のオーディオ界にも欠かせない要素かもしれませんね。
渡部:はい。初めて「良い音」を知る上での第一歩になるイヤホン。それがintimeであってもらえれば、開発者冥利に尽きます。
しかし、残念ながら我々にはブランド力がまだありません。いくら価格が安くても、中途半端な音作りをしては、誰も振り向いてくれないでしょう。だからこそ、音には妥協しない。この高崎市、観音山の麓で10μmの機械精度と音を照らし合わせながら、徹底的により良い音作りに励んでいます。そして、これからもこの「もの作りの姿勢」をブレずに続けて、後世に受け継いでいきたいと考えています。
――私自身、今まで使用してきたイヤホンと比べて、圧倒的に音質の違いを感じているのですが、その秘密はどこにあるのでしょうか?
渡部:私は、以前の仕事で30 年間「エレクトリックセラミックの技術」を専門にしてきました。これまでの経験を活かして、intimeにそのセラミックを取り入れたんです。
intimeに使われているセラミック
しかし、この技術はなかなか他では真似できるものではありません。というのも、セラミックをイヤホンに使うと、どうしても「耳に刺さる音」になってしまうからです。
その欠点を補うために、外周部に「垂直方向に支持するNi合金の振動板を有したツイータ(スピーカーユニットの一つ)」を採用しました。他にも、セラミックに長く携わってきたからこそ、実現できている部分はたくさんあると思います。
――なるほど、セラミックを知り尽くしているからこそ、この音質が実現されたんですね。貴重なお話、ありがとうございました。
intimeへの情熱やこだわりを伺い、ますます筆者がintimeのファンになったことは言うまでもない。ぜひ、その実力を自分の耳で確かめてほしい。