ビジネス系ライターの上明戸聡さんは、これまで300軒を超える全国の「ボロ宿」を泊まり歩いてきたという。
「ボロ宿」といっても言葉通りの意味でなく、歴史があって風情もある多少さびれた旅館・民宿を指す。なかには、有形文化財として指定を受けた格式のある宿や、文化人ゆかりの宿もあったりで、観光・出張のおりに「泊ってみようかな」と思わせるところもある。
上明戸さんは、そんな「ボロ宿」の世界をブログに綴ったところ、意外と同好の士が多いことがわかり、書籍化そして今年はテレビドラマ化まで果たした。実は「ボロ宿」は、ひそかなトレンドであるらしい。
上明戸さんの2冊目の著作『日本ボロ宿紀行2』(鉄人社)
そんなディープな「ボロ宿」の中から、一生に一度は泊まっておくべき宿を、上明戸さんにピックアップしていただいた。以下、選りすぐりの5軒を紹介しよう。
「新むつ旅館」(青森県八戸市)
上明戸さん「明治創業の遊郭が戦後に転業した宿です。玄関を入ると広い土間があり、奥のあがりに続く柱や床板は黒光りしていました。Y字型に分かれる凝った造りの階段や、吹き抜けの上を渡るような形で造られた空中廊下。さらには、折り鶴型の釘隠し、凝った造りの窓の格子や屋根の細工など、木造二階建ての随所に遊郭らしき雰囲気が残っています。こんなに歴史的価値のある宿に、いまでも普通に宿泊できるのは本当に貴重なことです」
旅館には、「開業時の明治時代の輪島塗や九谷焼、沈金彫など」貴重な食器類があり、食事ではこうした食器が使われるという。
さらに、遊郭であった時に使われていた「客の人相や服装、支払った費用、敵娼(あいかた)の名前が記された遊客帳」も公開されていて興味深い。
【基本情報】
住所:青森県八戸市小中野6-20-18
電話:0178-22-1736
アクセス:自動車・東北自動車道八戸ICから車で20分、鉄道・八戸線小中野駅から徒歩10分、八戸線陸奥湊駅から徒歩10分(車での送迎可能)
公式サイト
「薫楽荘」(三重県伊賀市)
上明戸さん「忍者の町で100年の歴史を刻んできた名物旅館です。2010年に泊まった際は、2階の部屋に通されて思わず「おお~」と声が出ました。墨痕鮮やかに漢詩が書かれた襖が見事で、欄間や障子の桟の細工も素晴らしい。明治に遊郭の茶屋として建てられた木造二階建てで、土蔵と共に国の登録有形文化財指定されているのだとか。5つある部屋はそれぞれ趣向が異なるそうなので、地元で有名な天神様のお祭りにでも再訪したいものです」
【基本情報】
住所:三重県伊賀市上野桑町1473
電話:0595-21-0027
アクセス:自動車・名阪国道(上野東IC)をおりて市街へ向かって2分。
公式サイト