今年球団創設70年を迎えた横浜DeNAベイスターズ。DeNAが親会社になった2012年シーズンから、観客動員数は約2倍、ファンクラブの会員数は約14倍にまで伸張した。今シーズンは、球団史上最も早く観客動員数100万人を達成した。なぜベイスターズはこんなにもファンに愛されるのか。その背景ある、DeNAならではの革新的なチャレンジや想いを、横浜DeNAベイスターズ広報の河村さんに聞いた。
メインターゲットは「アクティブサラリーマン」
私達が球団経営を始める際、まず行ったのが、マーケティングです。当時、お客様に関するデータがほとんどありませんでした。リピート率はもちろん、年齢や性別など、どんな人が球場に来ているかが全くわからなかったのです。そこで、観客が何を求めているかを知るために、2012年はデータ収集に注力しました。データ分析の結果、20代後半から30代のサラリーマンがメインターゲットということがわかりました。そこで、ペルソナを、土日もアクティブに遊ぶ”アクティブサラリーマン”に設定し、グッズやチケットなど、各部署が、同じペルソナに向けた施策やアプローチを徹底しました。データから、一人ではなく、複数人で球場に訪れる人が多いことも分かっていたので、アクティブサラリーマンに向けたアプローチでも、結果的に、家族、恋人、同僚など、周りの人の集客にもつながりました。
試合を無料で観せる「業界の禁じ手」も
コーポレート理念は「継承と革新」。野球界の常識の中でやっていても、DeNAの良さが活かされないと思い、様々な取り組みをしました。2012年から始まったのが、ハマスタBAYビアガーデンです。横浜スタジアムがある横浜公園に、200インチのモニターを設置し、 パブリックビューイングができるようにしました。チケットが余っているのに、試合を無料で観せることに対し、当初は驚かれました。しかし、普段球場に来ない人にチケッ トを買ってもらうのはハードルが高い。球場内に入らなくとも、花火などの演出を外からも感じられますし、中の熱気が伝わり、歓声が上がると、外で見ている人も盛り上がります。まずは、「野球を感じる」という体験をしてもらう。そうしてお客様の興味を高め来場につなげることを意識しました。当時は、球場に来る人を増やすために始めたことですが、今は、チケットが取れない方が球場外で 楽しんでいただく役割も担っています。
もちろん、うまくいかなかった取り組みもあります。例えば、「全額返金!?アツいぜ!チケット」。負けたらチケット代金を返金するというものでしたが、勝ち試合でも、返金が殺到してしまいました。「選手は勝ちを目指してやっているのに、返金してほしいと言われるのはプライドにも関わる」と、当時の中畑監督のお叱りを受けました。また、お客様にシャボン玉を飛ばしてもらうというイベントも失敗に終わりました。シャボン玉ははじけるもの。「飲んでいるビールにシャボン玉が入るのは気分が悪い」との苦情が出てしまいました。このように、うまくいかなかったことはありますが、球団として、「ベイスターズならではのことをやろう」という考えは変わりません。失敗を恐れず、次につなげればいいと思っています。
チームが負けてもチケットが売れる理由とは
2011年に約110万人だった観客動員数は、2018年には約202万人に。動員率は97.4%にまで伸張しました。その反面、「試合を観に行きたくてもチケットが取れない」という声もあります。コアユーザーは、年間数十試合を球場で観戦します。すると、ライトユーザーにチケットが行き渡らないという問題が生じます。その解決策として、今年約3500席を、2020年に約2500席を増設し、受け入れキャパを実質的に広げます。また、球場以外でもベイスターズの試合を楽しめるよう、ホテルなどでのライブビューイングや、ネットで野球を観られる環境づくりを進めています。昔は、「野球はテレビで見る」文化が根強くありました。ベイスターズは、業界の中ではいち早く、ニコニコ生放送やダゾーンなど、テレビ以外でも試合を観られるようにしました。
今までの常識だと、順位と観客動員数は直結するもの。しかし、ベイスターズの場合は、たとえチームが負けていても、チケットが売れるようになりました。チームを勝たせることができるのは、監督やチーム、そしてファンの皆様。企業としてできることは、球団事業を整え、魅力的なチーム・球場にすること。試合に勝って、お客様の満足度を上げる。音楽、フード、ホスピタリティなど、事業側で球場を盛り上げる。そうすることで、「チームが強いから球場に行く」ではなく、「横浜スタジアムで野球観戦したい」と考える人が増えたのだと思います。