遺言には故人の強い想いがこめられています。それを受け継ぎ、粛々と手続きを進めていくのが遺言執行者です。
遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する権利を持った人のこと。未成年者と破産者以外なら、原則として誰でも遺言執行者になれますが、法律にのっとり、特別に指定または選任されている必要があります。
一方、遺言執行者が必要とは限りません。遺言があることが大前提。そのうえで、相続人が多数いたり遺贈が行われるケースでは、遺言執行者がいれば手続きがスムーズに進むことが期待できます。
遺言執行者がいなければできない手続きというものもあり、相続人の廃除、認知などがそれに当たります。
遺言執行者の仕事内容は?
遺言執行者は、その任務を開始する時、すぐ自身の受任と遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。それから遺言の内容を実現するための手続きに入るわけですが、「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(改正民法第1012条)」と明記されているように、強い権限を持って行います。
主な仕事は、
・被相続人の財産を調べ、財産目録を作成
・相続人戸籍などの証書収集
・法務局での登記や金融機関の解約手続き
・全ての手続きが終了したら、各相続人など関係者に経過や結果報告
などがあります。
つまり、相続人が多く、財産が多岐にわたるほど仕事内容は複雑化するため、それなりの専門知識も必要です。そのため、遺言で自分が遺言執行者に指定されていても、仕事をやり通す時間や知識がないと思えば、断ることもできます。
遺言の執行者と相続人の関係は?
2018年7月までの遺言執行者は、「相続人の代理人」という立場でした。民法改正により、「その権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(改正民法1015条)」になりました。
ここから読み取れることは、遺言執行者はあくまで遺言の実現を行うため、それが相続人の利益に繋がらない場合もあるということです。
執行者と相続人が同一の場合ってあるの?
複数いる相続人のひとりや受遺者も遺言執行者になることができます。個人だけでなく法人も就任できるため、信託銀行やNPO法人がその役目を担うこともあります。
あくまで一般論ですが、相続人のひとりが遺言執行者になると、他の相続人から何かしらの不満からトラブルが起こること考えられます。遺言を作成する人は、そのあたりも考慮して指定するよう心がけたいものです。
遺言の執行者を選任する方法
遺言執行者の選任は次の3つがあります。
・遺言者(被相続人)が遺言により直接指定する
自分の遺志を確実に実行してくれそうな人を、遺言者自らが指定する。
・遺言者が遺言により、第三者に指定を委ねる
信頼のおける第三者に、ふさわしい人を指定してもらう。
・家庭裁判所に専任の申立をする
遺言で指定されていないが、遺言執行者を選任した方がよいと判断すれば、相続人ら利害関係者が、候補者リストを添えて申立をする。
遺言執行者を相続人などに通知する方法は?
受任したことを報せる通知書に遺言の写しを添えて行ないます。
民法では具体的な通知方法まで指定されていませんが、書類を送ることを考えると、記録の残る送付方法を選ぶのがよいでしょう。
遺言執行者の候補者の条件は?
法律で認めらている人未成年や破産者以外)であれば誰でも遺言執行者になることができます。一般的には、遺言者の遺志をよく理解している人や、各種の手続きを早く、確実に進めることのできる以下のような専門家や法人を選ぶことが多いのです。
・銀行
信託銀行では、遺言書の作成から保管、甲府、執行まで一括して行うサービスがあります。また、一部の銀行では遺言執行代行サービスを始めているところもあります。
・弁護士/司法書士
どちらも銀行と同じように、遺言作成から執行まで関わってくれます。
遺言の執行者は税理士もなれる?
もちろん、可能です。
遺言の執行者は複数いても大丈夫?
ひとりに限っていないため、複数でも問題ありません。役割分担をすることも可能です。
遺言の執行者がいない場合は代理人を立てられる?
遺言で指定された遺言執行者が何らかの理由で任務を果たせない時は、自己の責任で第三者にその任務を行なわせることができます。ただし、遺言執行者は相続人に対し、代理人の選任や監督について責任を負わなければなりません。
遺言執行者の選任の申立はできる? どうする?
家庭裁判所に申立を行います。必要書類は、
・申立書
・遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
・遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
・遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
・利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本(全部事項証明書)等)
などです。
費用や書式記載例などは、裁判所のホームページが参考になります。
【参考】裁判所 遺言執行者の選任
選任した遺言の執行者を変更するにはどうすればいいの?
原則として相続人は遺言の執行を妨げる行為はできませんが、遺言執行者の体調悪化や、執行能力の明らかな低下など、続けることが難しい時は、職務の執行停止を家庭裁判所に申立することができます。
選任した遺言の執行者が死亡した場合はどうする?
遺言者より先に遺言執行者が死亡していることが分かった時は、遺言の書き換えが必要です。
遺言執行者の死亡を知らずに遺言者が死亡した時は、執行者不在のまま相続人たちで手続きを進める。もしくは家庭裁判所に選任の申立を行う、どちらかを選びます。
遺言執行の手続きが始まってから遺言執行者の死亡などがあった時は、家庭裁判所に選任の申立を行います。
*遺言では遺言執行者の指定をA氏として、A氏ができない場合はB氏というように、順位をつけて指定することもできます。
遺言の執行者に支払うべき報酬はどれくらい?
遺言に定め(○○氏を遺言執行者とし、報酬は○○円)があれば、それに従います。それ以外については特に規定はありません。しかし、弁護士や司法書士などの専門家にお願いする時は、それぞれに料金設定をしているケースがあり、司法書士なら20万円~。弁護士だと30万円~あたりが最低価格のようです。
当然のことながら相続額が大きく、内容も複雑であれば報酬も上がります。
信託銀行は、相談から公正証書遺言の作成、保管、遺言執行までセットになっていることが多く、料金は100万円を超えるケースが多いようです。
文/西内義雄(医療・保健ジャーナリスト)
医療・保健ジャーナリスト。専門は病気の予防などの保健分野。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。飛行機マニアでもある。JGC&SFC会員。