その後、一時的に時速362kmにも達し、約40秒間の超高速の列車の旅が続く。今回、この速度帯で走行する区間にはR10000(半径10000m)のほぼ直線に近いカーブが存在しているが、この区間を通過中も特に高速運転に対する不安定な乗り心地はほとんど感じられない。あっというまの40秒が過ぎるとN700Sは徐々に速度を落とし、京都駅に到着した。通常米原~京都間の運転時間は20分だが、今回は18分で走り抜いた。
試験を終えたN700S。何ごともなかったようにいつも通りの佇まいだ。
ただ、今回の速度向上試験は東海道新幹線の最高時速向上を目指したものではなく、あくまでもN700Sの性能を確認するためのものだ。せっかく高速走行できるのに、と思うかもしれないが、東海道新幹線全線はカーブも多く、全域で時速360kmで走行できるわけではない。わずかな直線区間などで加減速を繰り返すのも電力を過度に消費し、せっかく他の交通インフラに対してエコなのが特徴である新幹線のメリットが減ってしまう。さらにN700Sで運転される列車だけ高速で運転するというのも他の編成やのぞみ、ひかり、こだまといった列車種別の区分などを考慮するとダイヤ構成上で非常に難しい。このような背景から、今回の試験を踏まえて東海道新幹線の最高時速を向上する、ということは今のところ予定されていない。
試験走行を終えてインタビューに応えたJR東海新幹線鉄道事業本部上野雅之副本部長は「2018年より繰り返しN700Sの試験走行を行い、いずれも非常に良好な結果を残しています。今回で5回目となる時速360km走行試験もN700Sに課した標準車両として高いポテンシャルを持っていると実感しています。これを踏まえて東海道新幹線はもちろん、海外へのアピールも積極的に行っていきたい」と語る。また、実際には時速360km運転を行わない東海道新幹線への今回の試験のメリットを尋ねると、「高速域でのみ採れるデータというものが乗り心地や車外騒音などたくさんあり、これを通常運行時の走行へフィードバックすることが可能です」とのことだ。
今回、実際に時速360km走行を行ったのは滋賀県近江八幡市~野洲市の約4km。乗客を乗せる営業運転を前提とした車両としてはJR東海史上最高速度を達成している。N700Sの営業開始は2020年7月を予定しており、「最高の」新幹線に日常的に出会えるのもそう遠くはない。
取材・文・撮影/村上悠太