23時15分、いよいよ車内へ。僕が指定されたのは4号車だ。以前にもN700Sの車内には入ったことがあるのでそんなに心構えもせずに乗降ドアの前に立つと、おお、すでに知っている新幹線の車内じゃない!床から天井、デッキまでいたるところにケーブルの数々が張り巡らされている。客室内に入ると、所狭しと試験走行のデータを集める検測機器が搭載され、一部の座席はシートも撤去。「これが試験列車か!」と思わず言葉が漏れた。客室ドアの上には普段、次の停車駅などを案内する液晶モニターに「SPEED」の文字。これは現在の速度をリアルタイムで表示するもので、元々N700Sに備わっている機能ではなくこの試験のために用意された特別なプログラムだ。鉄道ファンの僕としては行き先が通常ではありえない「京都行き」となっている点もちょっとうれしい。
出発に先立ち、新幹線鉄道事業本部企画部担当部長西原正文さんから今日の試験の案内が行われる。「米原駅を23時41分に出発した試験列車は加速を続け、まず時速300kmを目指します。この時点で現在の東海道新幹線における最高時速である285kmを超えています。その後、試験区間に入りますとさらに加速を続け、約4km、40秒間を時速360kmで走行し、その後は京都駅に向けて徐々に減速して到着します」
今回の試験項目を尋ねると「その時によって100項目近い検測を行う日もありますが、本日は40項目程度になっています」とのこと。また試験を行うにあたり、「米原~京都間の試験区間では線路や電気を通す架線にも改良を加え、高速走行に耐えられるようにしています。車両側も普段は先頭車である1号車と16号車にはモーターを積んでいませんが、こちらにもモーターを積み、16両全てにモーターが搭載されています。これにより通常より約15%の出力増強を図りました」と説明する。実はこの出力増強のすごさは最高時速達成前に体感することとなった。
今日の予定を話す新幹線鉄道事業本部企画部担当部長 西原正文さん。
23時41分、予定通りN700Sは米原駅を発車!この時点ですでに普段の走りと違うことに気づいた。そう、加速力が違う!「微妙な差なのでもしかしたらわからないかもしれませんが」と西原さんには言われていたが、明らかに加速の力強さが違う。これが全部の車両にモーターを積んだN700Sの本気加速なのだ。駅の先のポイントを渡り、まずは時速300kmを目指して加速。車内に設置されたモニターに映し出される前方の光景がどんどんと過ぎ去る。時速285kmを超え、ここからが普段の東海道新幹線では体験できない速度帯だ。肝心の乗り心地だが、ここまで仮に速度計が車内になければ普段より15km速いということに気づかないくらい特段に気になる点はない。「高いポテンシャルを持つ車両」と意気込むだけあって、単に「速く」走ることが出来る車両でないことがわかる。
「試験区間に入ります」と車内放送ののち、N700Sはさらに加速し時速320kmを突破!いよいよ国内の鉄道では体験できない速度域に突入する。夜中なので車窓からはその速度感を十分には感じ取れないものの、明らかに街明かりが過ぎ去るのが速い!時速300kmで走行していた時には感じなかった固めの軽微な揺れや、若干の走行音の増加は感じるが、決して無理をしている感はなく、車内は普段の東海道新幹線とほぼ変わらない。やがて目の前のスピードメーターが目標の時速360kmに到達!この日の目標速度に到達した。