皆さんは金融や資産に関してどんな考えを持っているだろうか。テクノロジーの進化によるデジタル化の波は、金融のようなレガシーな業界にまで波及してきている。それでは、働き盛りの20代、30代、40代のビジネスパーソンは現在の金融や、資産形成についてどのような考えを持っているのだろうか? 今回は「これからの金融」というキーワードで座談会を開催し、各世代の考え方違い、現在の金融の問題点、その世代ならではの悩みなどについて議論した。その内容をお届けしよう。
<今回の座談会の参加者>
40代:本誌編集長 安田 典人(写真右)
30代:現役金融マンであり、本誌でIT・金融系の記事を制作する@DIMEライター 久我吉史氏(写真中央)
20代:ブロックチェーンを使った次世代型銀行ソリューション「AIre」を開発するIFA株式会社 取締役COO 桂城 漢大氏(写真左)
あなたにとって資産形成とは?
――お金の未来を考えるうえで、まずは皆さんの「資産形成の考え方」について聞かせてください。
安田:40代の自分としては老後に必要となるお金がいくらくらいになるかが気になり始めてきます。ちょうど団塊ジュニア世代なので、将来への不安が大きいのが正直なところです。そのため資産形成には色々手を出そうとしています
久我:今の30代、特に30代前半は2008年のリーマンショックを社会人なりたてのころに経験しています。そのため、若いうちから、何かあった時のための資産を作っておきたいと思っている一方で、お金を貯めたら貯めたで、物に使うのではなく、旅行したり色々なことに挑戦する「体験」のためにお金を使っている人は多いように思います。
桂城:他の2人に比べ、私はお金に関する経験も知識もまだまだですが、年長者に話を聞く機会が多いです。その上で、資産を形成するというよりは、持ちつ持たれつの関係がいいのかなと思っています。車もそうだし、最近は家も。住所を持たずに泊まれるところを転々とする人もいるほどですし。私の場合は、資産形成の重要性は理解しつつ、まだ先が長いのでなんとかなるだろうと楽観的ですね。価値観としては資産が欲しいというより利用したいという思いが強いです。
40代になると老後のことが気になり始め、20代のうちは資産を作るというよりは利用する、シェアして使う。という考え方が特徴的のようだ。中間の30代はモノよりも「体験」に注目した資産形成に志向が向いているのが印象的だった。
これかの金融サービスの肝となる「スコアリング」
――世代別の考え方がわかったところで、この考え方を実現するために必要な金融サービスの未来についてどう考えているか教えてください。まずは現役金融マンの久我さんいかがでしょうか?
久我:金融マンの私がいうとあれですが、大手金融企業が最先端のスタートアップと提携しようとした時に立ちはだかるのが「システムの壁」ですね。すべてというわけではないですが、銀行の基幹システムに使われているのは実は1960年代の仕組みのまま。一掃しようにも顧客データを守る必要があるし、システムの堅牢性が高いので、切り替えに躊躇している金融機関も少なくありません。ユーザーエクスペリエンスという意味でも、今の金融機関が提供するオンラインサービスはスマホフレンドリーじゃないですね。
安田:そうなんですか。インターネットバンキングとかよく使いますけど、裏側がそんなに古い仕組みが使われているとは意外です。
桂城:そういった情報って、業界の人以外で知っている人ってあまりいないですよね。実際には仕組みとかをしっかり理解しておかないと、我々のような企業が金融サービスにアプローチする際に障壁となってしまいます。むしろ、ゼロから作った方が早いのではないかという気にもなります。
安田:そうそう。金融の未来と少しズレるかもしれませんが、ATMの手数料がかかるのって何とかなりませんかね。自分が預けているお金なのになんで手数料取られるんだろうと常々思います。
桂城:プラットフォームを作ってそこの利用料を手数料として受け取るサービスはシンプルでわかりやすいですからね。本当は年会費を固定で払って、その他の手数料は無料になるようなモデルの方が利用者はうれしいと思うのですが。
――既存の金融の仕組みの話になってしまいましたが、サービスの観点だとどうですか?
安田:『信用スコアリング』ってあるじゃないですか。あれで何が変わるのかがイマイチわからないのですが、金融マンの目線だとどう思います?
久我:自分が持つ与信力が定量的にわかるのがポイントではあります。しかし機械的に点数化してしまうと、スコアがよい人は優遇が受けられるのですが、スコアが悪い人はニ度とお金が借りられなくなってしまう欠点があります。
桂城:私はそもそも現状のスコアリングの仕組み自体に違和感があります。何をもとにそのスコアを算出しているかがブラックボックスですし、不利益を享受する層も出てしまう。努力で改善し、やりたいことを実現する、というライフプランニングができるような世界にすべきだと思います。そのためにはスコアリングの評価にも多様性が必要なのではないでしゅうか。
また、お金を借りるのが前提になっていますけど、増やすことも考えないといけないですよね。年収とか、勤務先とかの属性情報が元になっているスコアリングじゃなくて、その人がどのように稼げるか、投資でお金を増やせるかも評価対象にするなどして複数の可能性を見出してあげる必要がありますよね。
久我:しかし、日本人の平均年収が上がりませんから、増やそうにも原資が足りないままですよね。収入を増やすことを真剣に考えなければならないタイミングかもしれません。
桂城:当社で考えている構想がまさにそれですね。次世代型銀行では、口座を持つお客様の情報を価値に転換してあげられないかと考えています。例えば、自分がモノを買った時、その情報を企業に提供したらその分の対価をもらえるようできるなら、今までは企業に抜かれっぱなしだった情報に価値が生み出せますよね。個人情報の管理の問題は当然出てくるのですが、そういった視点も必要になると思います。
未来の金融サービスと聞くと、家計の状態をデータ化・見える化するサービスや、AIを使って最適な投資を行なうサービスなどがすでに始まっているが、いずれもまだ中途半端だ。今回の座談会で話題に上った「スコアリング」、つまり「データ分析による定量評価」は全ての金融サービスにおいて基本となるものだが、まだお金を借りるときに注目されているだけ。お金を増やすために必要なスコアリングも必要だし、政府も言うように「貯蓄から資産形成へ」をさらに推進しなければならないだろう。
さらに、日本人の平均年収が約420万円から一向に上がらないのも問題だ。副業などして収入を増やすのもよいが、今まで価値にできなかった情報を価値に転換することで、働く量を変えずに収入を増やせるかもしれない。まさに次世代の金融サービスと言ってよいだろう。それこそ30代が求めている「体験」について、体験した内容の情報を提供することでそれを価値にすれば資産が増やせるし、20代が求めている「シェアリングエコノミー」でも同じようにどのようなものをシェアしたかといった情報も価値にできる。
未来を考えるなら学校での金融教育の拡充も必要
安田:自分が学生のときは勿論ですが、桂城さんも久我さんも学校で金融教育って受けました?
久我:当然受けていないです。
桂城:私も受けていないですね。海外だと資産の増やし方とかキャリアの形成の仕方とかを普通の学校の授業で教えてくれます。キャリア形成することと資産形成って似たものがあって、知っておかないと行動できないし、キャリアを上げていかないと収入が増えないですからね。こんな実務的な話、日本の学校じゃ教えてくれません。
久我:お金に関する話をすることを「いやらしい」と考えたり「タブー視」したりすることが日本人の傾向ですよね。でも、社会に出たら金融知識は金融関係者でなくても必須です。生きていくのに必要だし、お金の問題って一生ついて回るものですから、教育も必要だし、こういったお金の話を気軽にできる考え方の醸成も必要だと思います。
――なるほど。現状だと自分で学ぶしかないですもんね。今日はありがとうございました。
今回の座談会では世代別の考え方を皮切りに、今後どんなサービスが実現できるか、実現するための問題点は何かなどを議論することができた。今回話題にのぼった①スコアリングを信用(お金をかりる)以外にも広げること ②日本人の収入を増やすために情報を価値に変えること ③金融教育の重要性 の3つは読者の皆さんにも関係することだ。デジタル時代の新しい金融システムはまだまだ発展途上なので、よりよい未来を描くために議論を重ねていく必要があるだろう。ぜひ読者の皆さんも、身の回りの金融サービスがどうなれば便利か、どう活用していくべきか、自分なりに考えてみて欲しい。
構成/編集部