■連載/ゴン川野のPC Audio Lab
ヘッドホンメーカーの中に、ユーザーの耳の特性に合わせて周波数特性や音圧レベルを調整して最適化すれば、もっと高音質化が図れると考えるところがあった。これを実現するためには、DSPを使うのが最適解と思われる。つまり、デジタル入力で受けてデジタルで補正してアナログで出力する。これに適しているのがBluetoothヘッドホンである。私も個人の耳に合わせてパーソナライズされるヘッドホンに興味があり、何種類か試聴してきた。
すると分かってきたことがある。音を補正するハードウエアだけでなく、耳の特性を測定して補正値を決めるソフトウエアも大切なのだ。最もオーソドックスなタイプのアプリは周波数帯域によって分割されたサイン波が小さな音から段々、大きくなり、聞こえた時点でボタンを押すというものだ。この結果を基に補正するので、人間の判断力によって補正値が左右される。
nuraは2016年に創設された若いメーカーであり、新生児の聴力検査おこなうための技術を応用して、パーソナライズされるヘッドホン『nuraphone』をクラウドファンディングで500万ドル以上を集めて製品化した。私も60秒で自動的に測定が終わるという『nuraphone』のソフトウエアに興味があり、プロジェクトを支援して製品を入手したのだ。
それが2019年になり、国内の代理店デルフィン・ジャパンを通じて販売されることになった。これで安心して『nuraphone』5万5000円(税込)を紹介できる。製品発表会にはCEOのDragan Petrovicさんも登壇され、製品に関する質問にていねいに答えてくれた。
カナル型イヤホンのようなユニークなヘッドホン
製品発表会場には参加者分の『nuraphone』が用意されiPadのインストールされた専用アプリ「nura」を使って耳の測定ができた。ヘッドホンの電源は自動的にON/OFFされ、装着するとiPadに接続された。ヘッドホンのイヤーカップのデザインは独自のもので、柔らかいラバー製のイヤーカップの中心部がカナル型イヤホンのような形状になっており、ここを耳に差し込む。イヤーカップの部分にはサブウーハーがあり、ノイズキャンセリング機能にも使われている。イヤホン部分にはフルレンジのユニットが搭載されている。まず、アプリはヘッドホンが正しく装着されているかどうかを判定する。これに合格しないと耳の測定に進めない。3サイズのイヤーチップが付属しているので、耳にフィットするサイズを見つけだす。サイズが合えば画面表示が変わっていよいよ測定開始、思ったより小音量のテスト信号が聞こえ約1分で測定とプロファイル作成が完了した。
結果、現れるのは円形のカラーマップで、これが何を意味するかは今まで謎だったのだが、Dragan Petrovicさんによれば、12時の位置から時計回りで周波数特性の20Hz〜20KHzを示しており、円から外側にはみ出す部分は耳の感度がいいことを意味するそうだ。色は赤、グリーン、青などに変化するが、コレに関するコメントはもらえなかった。プロファイルは3人分保存できるのだが、私の疑問は同じ人間が連続して測定しても結果が同じにならないことだ。それに対する回答は、ほぼ同じ傾向の補正値になるはずで、1回ごとに補正値は異なるとのことだ。
スマホかタブレットに専用アプリ「nura」をインストールしてパーソナライズする。アプリはAndroidとiOSに対応している。