日本に病院船ってあるの?
現在日本に正式な「病院船」はありませんが、11隻(海上自衛隊の護衛艦など9隻、海上保安庁巡視船2隻)の「準病院船」を保有しています。
私自身が内部を取材した『巡視船いず』をご紹介します。
巡視船としては大きいのですが、他国「病院船」と比べると小さいです。
1995年(平成7年)阪神淡路大震災で陸上施設に被害が及んだ教訓から、災害対策本部機能を盛込み建造された「災害対応型巡視船」です。
船内には多目的に使える大小会議室があり、乗組員以外に被災者や医療関係者など120名を収容・宿泊が出来ます。2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災では、3月20日に飛行甲板(船体後方)からヘリが飛び、南相馬市立病院の患者8名と医師3名を新潟市民病院に搬送しました。ただし常に救急対応医師が乗船している訳ではありません。
船内の医務室です。
2台の手術台(+病室ベッド2台)、レントゲン撮影室、血液検査器があり、応急手術にも対応できます。
CTはありませんが、臓器出血などを診察できる「超音波診断装置(エコー検査)」を備えています。エコー検査は人間ドックなどで受けた方もいるかもしれませんね。超音波は骨で反射してしまうので脳内出血など頭部外傷は確認できません。
もし『巡視船いず』が「病院船」として、『空母いぶき』に登場したらどうなるでしょう?
治安維持用の小銃などを除き、他者を攻撃する武器を持たないことで安全を保障されているのが「病院船」です。船首前方に機関砲を備える『巡視船いず』は、傷病者を乗せていても、最悪の場合攻撃を受けてしまうかもしれません。
世界で日本だけの「洋上救急」とは?
四方を海に囲まれ、領海+排他的経済水域(領土面積の約12倍)、日米SAR協定(海上での捜索や救助に関する協定)がある日本は、日本船に加え外国船の乗組員・乗客のケガや病気にも対応する必要があります。医療機関だけではとても対応できませんね。
1985年(昭和60年)から日本水難救済会(公益社団法人)が行う「洋上救急」は世界唯一、日本だけの取組みです。
洋上から要請があると、海上保安庁・海上自衛隊・航空自衛隊の艦船、ヘリ、航空機・飛行艇などに、患者の病状に合う技術を持つ医師達を病院から搭乗させ、救急処置を行いながら、全国の医療機関に搬送し専門的な治療に繋げます。「医療や官公庁など異なる組織を結び、迅速な治療」を行い、900名以上を救助しています。
実際の事案では、1人の傷病者を助けるために海上保安庁と自衛隊が共に出動することもありました。
TVに登場する「ドクターヘリ」に少し似ていますが、「ドクターヘリ」は飛行範囲が約50~70kmと短く、海上の長時間飛行や揺れる船舶に着陸することは難しいです。
巨大な「病院船」は災害の危険がある日本では心強い存在ですが設備に加え、医師はじめ医療従事者の確保など課題もあります。
陸上自衛隊には、コンテナ内に医療設備があり必要に応じて野外臨時病院(陸上や艦船上)を展開する「野外手術システム」を装備しています。
2016年伊勢志摩サミット会場近くに実際に展開し、自衛隊や民間病院スタッフと共に、テロなど不測の事態に備えていました。様々な組織や機材を活用することがますます重要になってくるのかもしれませんね。
取材・写真協力: 公益社団法人 日本水難救済会、米田堅持(写真家)
取材・文/ 倉田大輔(池袋さくらクリニック 院長)