15歳以上であれば認められる遺言書。とはいえ実際の書面を目にする機会も少ないし、自分で書くとなるとどのようにすればわからないものです。
そこで今回は、遺言書の基本知識をご紹介します。
遺言書にはどんな種類があるの?
法律でいうところの遺言は必ず書面に書いたものでなければなりません。ICレコーダに録音された音声、ビデオは法的効果がないのです。
厳密に言うと、遺言書には普通方式と特別方式がありますが、特別方式は緊急避難的な役割のため、ここでは3つある普通方式について説明します。
最も簡単な遺言書「自筆証書遺言」
字の書ける人なら誰にでもできる、最も簡単な遺言書です。条件として、
・自筆
・書いた年月日が記されている
・署名と印が押されている
の要件を満たしている必要があるものの、筆記用具や紙の種類、縦書きか横書きかなどの制約はありません。チラシの裏にマジックで書かれていてもいいのです。とても簡単に思えますね。
デメリットは、死後に執行してくれる人がいなければ無駄になることです。確実に執行してもらえるよう手配する必要があります。
ちなみに、不動産や預貯金口座などが複数あれば、詳細な目録も必要となり、正しく詳細に手書きすることは大変な神経を使います。そこで本年、2019年1月13日より、この「目録に限り」自書でないもの(遺言者以外の作成、パソコン等での印刷)も認められました。ただし、目録の各頁に遺言者の署名押印が必要です。
*自筆証書遺言の保管は現在自己責任で行うしかありませんが、2020年7月10日からは、申請すれば法務局で保管してくれる制度も始まります。
紛失や偽造の心配がない「公正証書遺言」
公証人に依頼する遺言書です。遺言者の希望を公証人が直接聞き、遺言書を作成します。同じものを3部作成し、原本は公証役場に保管されるので、紛失や偽造の心配がないのがメリットです。
デメリットはお金(手数料)と手間がそれなりにかかることです。手数料は相続財産の額により変動しますし、遺言作成時には証人2名以上の立会いも必要です。また、公証人の数が少ないため、依頼から作成まで1ヶ月程度の時間がかかることも覚えておきたいポイントです。
公証人についてはこちらのページが参考になります。
【参考】日本公証人連合会
やや手間がかかる「秘密証書遺言」
パソコンなどで文章を作り印刷したものでも、他人に書いてもらった(代筆)文でも認めてもらえる遺言書です。ただし遺言者の署名押印は必要なうえ、証人2人の立ち会いの元、公証人役場に持参し、全員に署名押印をしてもらわなければなりません。
非常に手間がかかるうえ、遺言書自体は預かってもらえないこと。公証人役場を利用しても、遺言者死亡後は裁判所による検認手続きが必要なので、利用する人は限られています。
遺言で指定できる事(遺言事項)
遺言の書き方に制約はありません。財産の全てを愛犬に…と書いても罰せられることはありません。が、効力があるかどうかは別問題。法的に効力があると認められる内容(遺言事項)にしなければ意味はありません。
遺言者のしか指示できないようなことも、しっかり書いておく必要があります。たとえば次のようなことです。
財産の処分方法
相続人や相続人でない人への遺贈。寄付行為など。
子の認知
婚姻関係にない人との間に生まれた子を認知すると、その子に相続する権利が発生する。
推定相続人の廃除、排除の取り消し
本来なら相続人になるはずの人が、被相続人に対し重大な侮辱や著しい非行があった場合、相続人としての権利を廃除すること。逆に、生前に行なった排除を取り消すことも可能。
他にも複数あり、個別の事情も異なるでしょうから、「遺言事項」で検索したり、市区町村の無料相談を利用することもおすすめします。
法的な効力はありませんが、付言事項(家族や相続人たちへのメッセージ)を書くこともできます。相続をスムーズに進めてもらうことが期待できます。
遺言書の作成方法
自筆遺言証書を選ぶなら、上記で説明した3つの要件さえ満たせば、取りあえず完成です。ただし、その内容が本当に有効かどうかは別問題。とくに高齢者や若年層(法律上、15歳以上ならOK)が書いたものは、いざ開封したら無効な内容ばかりだった…ということも珍しくありません。
公正証書遺言を希望なら、まず最寄りの公証役場で相談しましょう。何もわからなくても、必要な書類もアドバイスしてくれますし、作成にかかる手数料も法律で決まっています。確実で安心して任せることができます。反面、公証人との日程調整や資料の準備など、時間と手間はそれなりにかかります。
できるだけ早く、手間をかけずに進めたい場合は、司法書士や弁護士などの専門家にサポートを依頼することも可能です。
遺言書の作成を司法書士に依頼した場合の費用は?
ネットに公開されている司法書士事務所の例を調べると、5~10万円ほどの提示が多いようです。この額は現金5000万円ほどと一般的な持ち家1軒ほどのものと考えればいいでしょう。もっと額が多く、複雑な資産だとさらに上がります。
弁護士に依頼する費用はどれくらい?
日本弁護士連合会の資料によると、おおむね10~20万円との結果が出ています。このあたりを基準に資産が複雑ならそれ以上と考えておけばいいでしょう。
【参考】「市民のための弁護士報酬の目安」(2008年アンケート結果版)
遺言書の作成に必要な書類は?
公正証書遺言を例にすると以下の通りです。
(1)遺言者本人の本人確認資料
(2)遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
(3)財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票
(4)財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
遺言書の作成で公証役場にどんな手続きをするの?
遺言者が公証人の面前で遺言の内容を話し、それを公証人が文書にまとめて作成します。口授の際、証人(立ち会い人)2人が必要で、未成年者や財産を譲り受ける人やその配偶者、公証人の配偶者、公証役場の職員などは除外されます。
公正証書遺言は原本・正本・謄本の3部作成し、原本は公証役場で保管されます。
遺言書作成キットって何?
自筆遺言証書を作成することを想定し、必要な情報と用紙などがセットなったキットです。ネットで検索すれば2000円ほどで複数社の商品がヒットします。大手ではコクヨが出しています。
【参考】コクヨ便箋遺言書キット
正しい遺言書の書き方は?
自筆証書遺言なら原則自由ですが、読む人に伝わる内容、かつ、法的に効力のあるものでなければ意味がありません。
遺言書の書き方の例
法務省のホームページ内に、自筆証書遺言の例が参考資料として公開されています。
遺言書のパソコンでの書き方は?
パソコンで書くケースは、下書きとしてパソコンを使い、完成したら自筆で清書するというケース。あるいは、本年より認められた目録をパソコンで作成し、印字するケースがあります。
*目録の例は前出の法務省の参考資料の後半部分が参考になります。