閉幕映画はジャスティン・ケリー監督『Jeremiah Terminator LeRoy(ジェレミア・ターミネーター・リロイ)』。アメリカ最大の替え玉作家事件で、替え玉となったサヴァンナ・ヌープの自伝『Girl Boy Girl: How I Became JT Leroy』を基にした映画だ。
サヴァンナをクリステン・スチュワート、替え玉を仕立てた実際の作家ローラ・アルバートをローラ・ダーンが演じる。
替え玉事件は、ローラ・アルバートが自著『サラ、神に背いた少年』を著者JT・リロイによる自伝的小説としたことから始まる。小説は、娼婦だった母サラの真似をして男娼になった少年の物語でベストセラーになる。インタビューを求められたローラは、パートナー、ジェフリー・ヌープの妹サヴァンナを少年JT・リロイに仕立て上げる。架空の人物JT・リロイに実体が与えられたわけだ。
そして、口数の少ないシャイな少年作家JT・リロイと、リロイに代わって質問に答えたりもする付き添い(エミリー・フレイジャー、スピーディーなどと名乗る変装したローラ)というコンビが誕生する。
そのあらましはジェフ・フォイヤージーク監督により『作家、本当のJ.T.リロイ』というドキュメンタリー映画にもなった。そこには、小柄な女性が化けた、いかにも可愛らしい少年リロイが記録されている。若く、可愛く、才能があると三拍子そろったところに、悲しい生い立ちまで添えられた少年作家が、熱狂的に迎えられた様子がわかる。
そして、それを引き起こしたローラの成功への希求と裏腹のコンプレックスまで伝えたドキュメンタリー映画だったが、今回のドラマ映画『Jeremiah Terminator LeRoy』は、サヴァンナの自伝が基ということから推測される通り、サヴァンナ寄りの話になっている。
『Jeremiah Terminator LeRoy』中には、凝った衣装をつけて雑誌用に写真撮影までするスター作家になったリロイが、女性と愛しあう場面もあれば、サヴァンナとボーイフレンドのベッドシーンもある。いろいろと複雑だが、バイセクシュアルだったようだ。ちなみに、サヴァンナ=リロイを演じるクリステンもバイセクシュアルであることを公表している。
ケリー監督は、2015年のBFIフレアにも『I am Michael』で参加している。そちらも、マイケル・グラッツェの実話を基にした映画だった。ゲイの活動家だったグラッツェは、キリスト教に傾倒した後、自分はゲイではないと宣言する。疑問を感じさせる人物の行動を描きながら、批判はせず、判断を観客に委ねる映画だった。ケリー監督のその姿勢は、『Jeremiah Terminator LeRoy』でも同様だ。
一方、今回はケリー監督と参加したサヴァンナも、以前のこの映画祭で登壇している。BFIフレアではなく、ロンドン・レズビアン・アンド・ゲイ映画祭という名称だった2005年のことだ。アーシア・アルジェント監督『The Heart Is Deceitful Above All Things』の原作である同名小説の著者JT・リロイとして。もちろん、側らには、付き添いエミリー・フレイジャーになりすましたローラ・アルバートがいた。
文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com