■連載/Londonトレンド通信
3月21日から31日まで、第33回BFI(英国映画協会)フレア:ロンドンLGBTQ+映画祭が開催された。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエッショニング(はっきりしない)の頭文字に+をつけ、その他も含ませた性的少数者に関する映画の祭典だ。
映画祭の目玉となるのは何といっても開幕映画と閉幕映画だが、その両方とも事実に基づいた話かつ主人公が作家だった。とはいえ、かなり毛色は違う2本だ。
開幕映画は、チャーニャ・バトン監督『Vita & Virginia(ヴィタ&ヴァージニア)』。ヴァージニアは作家ヴァージニア・ウルフ、ヴィタは詩人/作家ヴィタ・サックヴィル=ウエストだ。1992年初上演の同名劇を書いたエイリーン・アトキンスが、バトン監督と共同で脚本を担当している。
幾度かの精神的危機に直面し、最後は入水自殺したヴァージニアは、作品もさることながら、人物そのものも興味深い。少女時代の近親者による性的虐待との関連についての研究などもなされている。映画化もされていて、ニコール・キッドマンが付け鼻をしてヴァージニアを演じた『めぐりあう時間たち』など記憶に新しいところだ。
『Vita & Virginia』では、ヴァージニアとヴィタの関係が描かれる。ヴァージニアをエリザベス・デビッキが繊細に、一方のヴィタは対照的にバイタリティーあふれる女性としてジェマ・アータートンが演じている。
今では同性同士の結婚が認められているイギリスだが、1920年代の同性愛もゆるく容認されていたようだ。
2人は、出会って間もなく惹かれあう。そして、ヴァージニアはヴィタをモデルに代表作の一つ『オーランドー』を書き上げる。後に、やはり作家となったヴィタの息子ナイジェルが、「文学の中で、最も長く魅力的なラブレター」と評した小説だ。
『オーランドー』は、男性から女性へと生まれ変わりながら、老いることなく時空を超えるオーランドーの不思議な物語。その不思議は現代でも色あせることなく、1992年、サリー・ポッター監督によって映画化もされた。そちらの邦題は『オルランド』で、主演したティルダ・スウィントンの中性的な美しさが際立っている。
ところで、出会った頃のヴァージニアとヴィタには、すでに夫がいた。いわゆるW不倫ということになろうか。
両夫とも妻たちのそういうつきあいを黙認しているのが面白い。結婚もできなければ、子供ができる心配もないという意味では、結婚生活をおびやかすことのない関係として、異性との浮気より害がなかったせいか。
そして、ヴィタの夫で外交官/作家のハロルドにも男性の恋人がいた。それならヴィタとハロルドは仮面夫婦だったのかというと、そうでもなさそうなのがまた奥深い。