■連載/阿部純子のトレンド探検隊
新潟県内で9割が消費される幻のいちご「越後姫」
九州、関東の産地のいちごは4月に入ると終盤を迎え、果実が小さくなり酸味が強くなってくるが、桜が咲く頃に甘みが一段と増して旬を迎える春いちごが、新潟県で生産されているオリジナル品種「越後姫」だ。生産量の約95%が県内で流通するため、首都圏を含め新潟県外ではほとんど見ることがない「幻のいちご」でもある。
資生堂パーラー銀座本店3階のサロン・ド・カフェでは、2019年4月2日~4月30日まで、春いちご「越後姫」を使った「新潟県産“越後姫”のスペシャルストロベリーパフェ」(税込2380円)を提供する。
露地栽培されるいちごは4~5月がメインだが、ビニールハウスで栽培されるようになってから、クリスマスに登場する12月後半~2月ごろが旬の冬いちごが主流になった。ビニールハウス栽培が盛んになった昭和の後半ごろから新潟県も冬いちごを作るようになったが、雪が多い新潟は早い時期のいちご栽培に適した気候ではなく、さまざまな品種を試したがうまくいかない状況だったという。
平成に入り、新潟に適した品種を作ろうと農業試験場でオリジナル品種の育成を始め、平成8年に生まれたのが「越後姫」。当時の新潟県知事が、可憐でみずみずしい、新潟のお姫様のようだと命名したという。しかし、同じ平成8年にデビューした「とちおとめ」は全国に知られる品種となったが、越後姫は県外ではほとんど流通されず認知度は低い。
越後姫は4月のいちごでも大粒で酸味が少なめで甘みが強く香りも非常に高い、おいしいいちごだが、なぜ県外ではあまり知られなかったのか?それは新潟県で栽培されているいちごの最大の特長でもある「やわらかさ」にあった。「築地市場ドットコム」(現・豊洲市場ドットコム)が作成した「苺の断面図カタログ」のチャート図(出典元:築地市場ドットコム)の中でも「越後姫は」一番やわらかめに位置している。あまおうやとちおとめなど、輸送性の高い果肉のかたいいちごが多い中、市場流通している品種の中で最もやわらかいのが越後姫といわれ、傷みやすく栽培や輸送が難しいことから、県外への流通はほとんどない状態だった。
「コシヒカリの栽培もそうだったが、『栽培上の欠点はその品種の欠点にあらず』と、味がおいしければ栽培が大変でも努力して作るという新潟農家の考え方があった。果肉がやわらかいと傷みやすいため、空中で栽培する『高設栽培』を積極的に導入。水分、気温を細かく管理して丁寧に育てている。
輸送にも気を遣い、1個ずつ包み込む包装素材で、精密機械を運ぶ特殊なエアーサスペンションを装備したトラックを使っている。流通の改善もあって新潟ではスーパーにも並ぶようになったが、新潟県内で流通されるのが95%、県外に出るのはわずか5%。県外に出るものは生産者をしぼって状態のいいものを出している。
知られざる新潟の隠し玉が越後姫で、果肉がなめらかでジューシー、香りがいい。新潟のスーパーでは越後姫が並ぶと店に入った途端にいちごの香りがするほど。九州、関東は4月になると気温が高くなるのでどうしても酸味が乗ってしまうが、新潟の4月はまだ雪があり、冷蔵庫の中でいちごを作っているような状態のため、じっくりと熟して、4月になっても大粒で甘みのあるいちごができる」(新潟県農林水産部 食品・流通課 販売戦略班 主任 山吉恭平さん)