■連載/Londonトレンド通信
フランク・サイドボトムとして知られたクリス・シーヴィーが、2010年、ガンを患い54歳で亡くなった時、文字通り一文無しだった。葬儀費用は友人やファンの募金でまかなわれた。
そのクリス・シーヴィーのドキュメンタリー映画『Being Frank: Chirs Sievey Story』が、イギリスで3月29日から劇場公開された。制作費用は今度も募金、スティーヴ・サリヴァン監督がクラウドファンディングで集めた。サリヴァン監督は、過去にフランク・サイドボトム短編ドキュメンタリーを撮っていて、生前のシーヴィーを知ったことが制作の動機になった。
短い間に2万ポンド強(約300万円)を集め挙げられた葬式に、5万ポンド弱(約700万円)を集め作られたドキュメンタリー、何とかしてあげたいと思わせるキャラなのだ。
とは言え、イギリス、マンチェスター出身のクリス・シーヴィー、フランク・サイドボトムは、海外ではそれほど知られていないだろう。
だが、張りぼての大頭を被ったフランクに見覚えがある人もいるはずだ。日本でも2014年に公開されたコメディー映画『FRANK -フランク-』のモデルがこのフランク・サイドボトムなのだ。
モデルのほかにも、『FRANK』には今回のドキュメンタリー映画と接点がある。映画中に登場する謎の被り物男フランクのバンドのキーボード奏者はジョンという名前で、ドーナル・グリーソンが演じ、語り手的な役になっている。その脚本を書いたジョン・ロンソンこそ、一時期、フランク・サイドボトムのバンドのキーボード奏者だった。
ロンソンは、実話を基にしたコメディー映画『ヤギと男と男と壁と』の原作者として、また、『サイコパスを探せ!:「狂気」をめぐる冒険』の著者としても知られる人気作家だ。実話からコメディーを引き出すことにかけてはピカイチのロンソン自身が、コメディーみたいな現実の中にいたのだった。
ロンソンだけでなく、『FRANK』はそうそうたるメンバーによる映画だった。その後『ルーム』でアカデミー賞候補になるレニー・アブラハムソン監督に、フランク役もイギリスからハリウッドに進出し、様々な俳優賞、また、セクシー俳優にも名を連ねるようになったマイケル・ファスベンダーだ。
さて、天才的な音楽の才能を持ちながら、心の病を抱え、張りぼてを脱ぐことのできないフランクとして、笑わせて最後にほろりとさせた『FRANK』だったが、『Being Frank: Chirs Sievey Story』にみる実際のフランク・サイドボトム=クリス・シーヴィーはそれほど綺麗にまとまらない、だからこそ応援したくなるのであろう、キャラクターだ。
張りぼてを被ってはいるが、フランク・サイドボトムはそもそも謎の男でもなかった。ステージに上がると、客席から「おまえ、クリス・シーヴィーだろ」と声が飛んだりして、回りもその声にハッとするようなこともなく笑いが上がる状態だった。
それはそれとして、素顔は明かさないということで、周りのスタッフや友人もそれを尊重していた。