有識者への寄付は倫理的に問題
法林氏:この座談会でこれだけ総務省の話題を取り上げてきたので触れておくけれど、共同通信が報じたところによると、モバイル研究会の有識者の人たち、いわゆる学校の先生方が、KDDIとドコモから学校を通じて個人に対して寄付を受けている。8人に4300万円。一部の有識者は、もらっていることを自主的に開示したそうです。でも、他の人は今回の共同通信の報道で発覚した。学校の人はそうなんだけど、企業に勤めている人はどうなっているかは分からない。
石野氏:コンサルタントの人たちは、いってみれば自分のお客さんがキャリアだったり販売代理店だったりするので、完全に独立性が保てているかというと若干、疑問符が付きますね。
石川氏:そうすると誰もいなくなっちゃうけどね。
法林氏:そう。KDDIとドコモをフォローしておくと、企業が学校に対して学術研究のために寄付をすることは、僕はいいと思うんです。他の業界でもやっていること。鉄道だろうがクルマだろうが、サービス業だろうが食品だろうが、みんなやっている。民と官で新しい事業を作ることもあるだろうから、いいと思うんですけど、ただ、携帯電話事業の根幹に関わる議論をしているときにお金をもらうのは、さすがにまずくないですかと。直接的な利益供与と思われても仕方がない。少なくとも、この審議をしている間は返上するとか断るとかが本来の筋。もっといえば、総務省はその内容をきちんと国民に分かるように開示するべき。完全に袖の下状態になっちゃっているので。
石川氏:説得力がなくなりますよね。
法林氏:SNSの反応を見ても問題視している投稿が多い。お客さんは納得しないですよね。お手盛りなのねって。
石野氏:オックスフォード大学かケンブリッジ大学かは忘れましたけど、ファーウェイからの寄付金を拒否したって。本当にクリーンにやろうとしたらそうするべきですよね。
石川氏:まぁ、寄付した割には議論がキャリアのためになっていないけれど(笑) でも、極論すると、あの寄付がなかったら、もしかしたら携帯電話料金が下がっているかもしれない。4300万円分、ユーザーに還元するかもしれないじゃないですか。
法林氏:“ミルク補給”(親会社から子会社への金銭的支援)が悪いと言っている奴らがミルク補給を受けている。
石野氏:倫理的に問題がある。そこはもう少し規制した方がいい。金額は全体の研究費からするとそんなに多くないとはいえ、少なからず影響を与える可能性もあるし。
法林氏:学校全体に対しての寄付とか、学部に対しての寄付とか、百歩譲って学科に対してはいいとしても、学校を通してその研究室に対して直接というのはマズイ気がする。
石野氏:しかも、キャリアが通信技術系のところに寄付するなら分かりやすいですけど、憲法とか情報関連とかの専門家じゃないですか。それって違う意図がありますよねと疑われても仕方がない。する方もされる方もよくないですね。
……続く!
次回は、楽天を含む通信キャリアの決算発表から見えてきた5Gの未来について話し合います。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。