「完全分離」の影響はMVNOにもある
房野氏:その法律はMNOだけが対象ですか? MVNOも対象に含むものなんですか?
石野氏:分離プランに関してはMVNOも含まれているはず。
石川氏:ここで一番危険なのは、分離プランしか導入できなくなって競争が起きなくなること。各社分離プランになって端末の価格も同じになると考えると、ユーザーが選ぶ余地がなくなる気がするし、果たしてこれが競争環境の促進になるのか。正直よく分からない。
法林氏:MVNOは今でも接続料が高いので、そんなに簡単に値段を下げられない。例えば3GBのプランが1600円くらいだけど、ここからいきなり500円に下げることはできない。接続料、MNOから借りる料金は当然、変えていかなくてはいけないんだけど、これは別の審議会でやっているので、いつまとまるかは明確に出ていない。たぶん、それも合わせて秋になるだろうという話。MVNOも完全分離になると、困るのがgoo Simseller。
石野氏:(笑)あとUQ mobileもそうですね。
法林氏:MVNOも実は、端末を契約してくれた人に対して値引きしている。
石川氏:ギフト券とかでね。
法林氏:たぶん、これがダメになる。
石野氏:ダメになるかもしれないですね。契約と紐付いた割引がダメになるので。
石川氏:端末を抱えることがリスクになるので、通信をやっている会社は端末を売らなくなる可能性がある。端末は別で調達してください、私たちは通信しか提供しませんよって話になってくる。でも最近のMVNOの売り方を見ていると、端末と通信がセットになっているからこそ、ユーザーは格安スマホにデビューしている。日本通信がSIMカードしか売っていなかった頃は全然MVNO市場が盛り上がらなくて、マニアしかSIMカードを買わなかった。それが、SIMカードと端末をセットにして「格安スマホ」として売ったことでユーザーは飛びついた。完全分離すると、ついて行けないユーザーがほとんどなんじゃないかという気がする。
石野氏:そりゃそうですよね。普通の人はSIMカードなんて意識していない。単体では何もできないもので、端末に挿して初めて機能するものだから。さらにeSIMになるとカードがなくなっちゃうわけだから。
石川氏:さらによく分からなくなる。
法林氏:MVNOに関しては、SIMカードの調達やMNOから帯域を借りることもあって、かけられるコストはユーザー数とのかけ算で決まってくる。だから極端に安くはできない。どこで儲けるかというと、たぶん、契約してくれた人を半年、1年間縛るしかない。でも縛りは総務省が止めようとしているので、それもできなくなる。だから難しい問題。
石川氏:ユーザーを獲得するのにコストが発生して、獲得コストを回収するために長く契約してもらうことが稼ぐための手段。縛りは止めなさい、端末割引も止めなさいとなったら、通信ビジネスをやる意味があるのかという感じになってくる。
石野氏:そもそも今の2年契約が“縛り”になっているのかという疑問もある。
法林氏:縛りの話は誤解が多い。キャリアとの回線契約を2年間とすることで、月々の料金を下げること、最初はこれを縛りだと言っていた。もう1つの縛りがあって、端末の分割払いと、ドコモでいえば月々サポート。月々サポートを24回分もらっていないから縛られているという人がいるわけですよ。だけど、端末を変えたいのだったら、同じキャリアで買い換えれば次の機種の月々サポートを受けられる。あるいは、他社に乗り換えるのは自分が好きで乗り換えるわけで、ドコモとの付き合いが終わるわけだから月々サポートがもらえなくなるのは当たり前。それがおかしいと言うのは、スポーツクラブを退会したけど権利だけよこせと言っているようなものなので、無理なんですよ。もう1つが分割払い。これもすごく誤解が多くて、キャリアの契約を解除しても分割払いは継続できます。3社とも同じです。今回の研究会の中で、そのことが全然出てこない。ユーザーが縛りだと思っていることが何かということが、ちゃんと明確に議論されていないまま今回の話が出ている。
石野氏:今回、2年契約の縛りも緩和しろと言っていますが、あれも正直、縛る効果がどのくらいあるのかが見えない。だって途中で解約したって、たかだか1万円ですよ。
石川氏:1か月、2か月分の支払い程度の金額。
石野氏:下手したら1か月ですよ。
石川氏:解除料はその程度の額でしかない。そこにそんなに縛られているのはおかしいと思うし、確かアメリカは2年縛りが存在しないけれど、あまりシェアが変わっていないですよね。Sprintががーっと盛り上がっているかといったらそうでもなくて、AT&TとVerizonが2大巨頭でいて、その後をT-Mobileが追っている状況。たぶん2年縛りがなくなっても、そんなにシェアは変わらないんじゃないかな。
石野氏:キャリアもちょっとビビり過ぎ。2年縛りにあれだけの時間を費やして議論する必要があるのか……たかだか1万円ですよ。それが悪徳商法みたいに言われている。10万円取りますとかだったら問題だと思うけど、1万円ですよ。
法林氏:ところで最近、MNPの手数料を高くするMVNOがいるんですよ。
房野氏:3000円じゃないんですか?
石野氏:自由に設定できるんですよ。
法林氏:流動性を高めるんだったら、MNPの手数料を統一すべき。手間がかかるので廃止するのは難しいと思うんですよ。でも、どこにMNPするにも必ず3000円で移れます、というようにするべき。契約解除料も同じで、契約を解除しなかったら払っていた料金プランの何%分を払うとか、そういう形でルールを決めるべき。さっきgoo Simsellerの話をしたけれど、新機種が出るとgoo Simsellerはいきなり安売りするわけですよ。量販店で10万円くらいする端末を8万円とかで売る。なぜできるかというと、必ずOCN モバイル ONEのSIMが付いてくる。その販促費として2万円引いているという格好。なおかつ開通しないとダメという制約もある。
石野氏:以前は開通しなくても良かった。
法林氏:今は開通しないとダメ。でも、こうした売り方も、今回の研究会でダメになる可能性がある。これで本当に市場は活性化するのかというのが疑問。ルールの作り方が下手なんですよ。学者さんの机上の空論。
石川氏:分離プランにすれば、端末代金は高くなるかもしれないけれど通信料が安くなるというのは、理想論でしかない。
石野氏:学術的に検証されているのかも疑問。ただ、料金が高い高いと言っている人の中には、d払いなんかが含まれているということも結構あったりする。コンテンツサービスを使っていたり。そういった面もちゃんと分解されていない。
石川氏:いろんな誤解があるんだけど、それを総じて「分かりにくい」という一言でまとめられているからやっかい。これって国がどうこうするよりも、個人で料金を安くする努力をしないことにはどうしようもない。