A:ギア入れてクラッチ切って助走つけて……
「「押しがけ」とは、言葉の通り「バイクを押してエンジンをかける」という行為です。そもそもなぜそんな面倒なことをするのかといえば、たいていはバッテリー上がりによりセルスターターが機能せず、エンジンをかけられない時でしょう。
押しがけのやり方を説明する前に重要な注意事項があります。あなたのバイクがキャブレター車なら、押しがけが可能です。しかしもしFI(フューエルインジェクション)車なら、押しがけは(ほぼ)不可能だと思ってください。
あなたのバイクがキャブレターを使っているか、FIを使っているかは、カタログやウェブで調べたり、販売店や識者に尋ねるなどして把握してください。なお、現在新車で販売されているバイクのほとんどがFI車なので、年式が新しいほどFIの可能性が高く、押しがけは(ほぼ)不可能、となります。詳細は後述しますが、故障の原因になりかねませんのでくれぐれもご注意ください。
さて、バッテリーが上がりエンジンがかからなくなってしまったあなたのバイクが幸運にもキャブレター車でスリッパークラッチも搭載していないなら、押しがけを試みましょう。ものすごく細かい話ですが、公道で行う場合は周囲の交通に十分気を付けて、必ずヘルメットを着用してください。やり方は以下の手順です。
(1)メインキーをオンにする。
(2)ギアを2速に入れる。
(3)クラッチレバーを握る(クラッチを切る)。
(4)助走をつける。
(5)ある程度速度が乗ったら、バイクに飛び乗る。
(6)ドンとシートに腰を下ろし、その瞬間にクラッチレバーを放す(クラッチをつなぐ)。
(7)エンジンがかかる。
うまく行けば、まるで魔法のようにエンジンがかかるはずです。うまく行かないのは、(4)の助走の速度が足りないケースがほとんど。下り坂や、押してくれる仲間を利用して、できるだけ速度を高めましょう。「できるだけ」とは言っても100km/hも出す必要はありません。人が軽く走るぐらいの速度で十分です。
(5)の、動いているバイクに飛び乗る勇気が出ない方も、諦めた方が無難です。具体的には、停まっているバイクの左側に立って両手でハンドルを持ち、左手はクラッチレバーを握り、そのままバイクを押しつつタタタッと小走りしてから左ステップに左足を乗せ、よいしょとまたがる、という動作になります。自転車でよくやる動作なので決して難しくないのですが、相手が重量級のバイクとなると威圧感が違いますし、バランスを崩せば転んでしまう可能性もあります。自信がない方は潔く諦めるか、ロードサービスやデキる仲間に救いを求めましょう。
(6)も大事です。押しがけというのは、簡単に言えば強制的にリアタイヤを回し、クランクシャフトを回し、タイヤ側から強引にエンジンをかけることです。かかっていないエンジンは、ガンとして動こうとしません。手強いソイツをタイヤ側から無理矢理回そうとするので、動こうとしないエンジンvs回そうとするリアタイヤ、という熾烈な戦いになります。ドンとシートに腰を下ろすとリアタイヤに体重が大きくかかり、グリップ力が増します。その瞬間にクラッチレバーを放してクラッチをつなげば、もっとも効果的にエンジンを回す力が働くというわけです。
そんなわけで、スリッパークラッチ(バックトルクリミッター)搭載車は、押しがけが非常に困難です。スリッパークラッチは、リアタイヤに過度なトルクがかかった時にそれを逃がす装置。タイヤ側からもエンジンに力が加わりません。スリッパークラッチ搭載車で押しがけする場合は、スリッパークラッチを作動させないようにクラッチをつなぐという、絶妙な操作が求められます。