気鋭の写真家が映し出す愛くるしい動物たちの写真。その可愛らしさの奥には「いのち」の大切さが溢れている。
家畜写真家として活動する女性がいる。瀧見明花里(あかり)さん。2017年から「AKAPPLE(あかっぷる)」の名で全国・海外の牧場を訪れ、主に家畜動物の撮影を行なっている。
現在28歳。大学卒業後、一般企業に就職するも、数度の転職を繰り返し「家畜写真家」という場所に辿り着いた。幼い頃から動物好きだった彼女だが、なぜ「家畜」なのか?
きっかけは最初の会社を退職し、ワーキングホリデーで働いたニュージーランドの農場での出来事だった。
「大学生の頃から趣味で写真を撮っていた私は当時、ニュージーランドで動物や風景を中心に撮影をしていました。その時のファームスティで子牛の死を目の当たりにしたことが全てのきっかけでした」(瀧見さん)
もともと写真が好きで、自然や動物と共生している第一次産業に興味を持っていたという瀧見さん。子牛との別れは衝撃だったという。
「子牛は早産で小さい体ながら、まだしっかりと命の鼓動がありました。でも、『助からないのに生かしておくと死ぬまで苦しまなければならない』という農場オーナーの判断でその子は発見から1時間足らずで射殺されることになりました」(瀧見さん)
救ってあげたいという気持ちが込み上げ、涙が止まらなかった。しかしその一方、感じたのは第一次産業にとって避けて通れない宿命。子牛との別れが瀧見さんの人生を変えた。
「帰国後、畜産に携わりたいという想いが強くなりました。『私たちが食べているお肉が元々は動物であったという事実を消費者に伝えたい』という想いが強くなったんです。そこで、私の好きな写真と家畜動物を組み合わせて何かできないかと考え、思いついたのが「家畜写真家」でした」(瀧見さん)
「いのち」の大切さを教えてくれた子牛のため、世界中の「いのち」のため、彼女は動物たちの生きている姿をカメラに収めようと決めた。写真家としてのテーマは『「いただきます」を世界共通語へ』。
瀧見さんの写真は独特だ。
多くの作品に見られるのは感情が伝わるほどの近距離、そして我々に何かを訴えかけるかのような眼差し。
撮影技術に関しては独学だというが、どれも力強い生き様が映し出されている。
ーー動物の写真を撮る時に心がけていることは?
「動物の目線以下から撮影することです。基本的にはいつも寝転がるか四つん這いで撮影しています。私が写真で表現したいのは、動物の生きている世界観であり「いのち」です。家畜動物を動物として見てほしいので目と目を合わせて撮影することが多いです」
「あとは、家畜動物だからできる接写。 農家さんがいつも愛情を持って育てているからこそ、野生動物では難しい接写ができると思っています」(瀧見さん)
そんな瀧見さんは昨年クラウドファンディングで資金を募り、「日本一周農家旅」を達成。北海道から沖縄まで約40カ所の農家を回った。その中から特に思い出深い写真を選んでもらった。
「北海道北十勝の農家さんの短角牛です。ここの牛たちはとにかく懐っこい。すごくリラックスした表情を見せてくれたし、牛たちのマイペースな空気の中、私もマイペースに撮影できて幸せなひと時でした。撮影してると牛たちが興味を持って近づいてきてくれるんですよね。撮影していた時ののんびりとした空気が伝わるでしょうか?」
「こちらは熊本県の手作りのおうちに住んでいる農家さんで撮影させていただいた一枚。幸せそうに眠る子豚が2匹。あまりにも幸せそうに眠っていたので、私も横になってしばらく眺めてしまいました。私がこんなに近くにいると知らない豚さんは、起きるとちょっと焦った表情でお母さんの元へ走って行きました。豚さんにほっこりさせられた1枚です」
「山口県で撮影させていただいた肉用鶏です。最初はみんな逃げていって近寄ってこなかったけど、徐々に私の周りに集まりだして背中にも乗っかってきました。特にこの子は、私が寝転がっている目の前に座ってカメラをじーっと観察。警戒心より好奇心が勝ったようで、近すぎて撮影するのが逆に難しかったです。鶏さんと仲良くなれたからこその1枚です」
「家畜写真家」として活動して1年。瀧見さんは今の自分について、こんなことを語ってくれた。
「今まで最も長く続いた仕事が1年でした。社会不適合者です。そんな私でも「家畜写真家」は気がついたら1年を過ぎていた。一般企業はダメでも、いろんな生き方がある。この道に進んでよかった。後悔しないように生きようと思います」
ーー将来の夢や目標はなんでしょうか?
「現在の一番の目標はクラウドファンディングでの最終目標として掲げた、2020年に東京で写真展を開くことです。あとは、子供達に写真を見せる機会がもっと増えればいいなと思っています」
ーー最後に改めて、最も伝えたいことを教えてください。
「自分たちが食べている「食」について少しでも考えるきっかけを作れるといいなという想いで活動をしています。私がこの活動を始めたのは、動物たちの『いのち』に光を当てたいと思ったのが一番です。まずは写真を見て「可愛い」という入り口から入っていただき、そこから実際に動物を見に足を運ぶ人が増えたり、何かを感じたりして『いのち』と向き合っていただくきっかけになると幸いです」
「AKAPPLE(あかっぷる)」瀧見明花里さんのHP
https://photographer-akapple29.com/
AKAPPLEさんツイッター
https://twitter.com/akapple29
取材・文/太田ポーシャ