〇食事とのペアリング
昨今注目されているのが日本酒と食事のペアリング。和食とはもちろん相性がいいが、鍋料理でも味噌仕立てか水炊きなのかで選ぶ酒は変わる。基準となるのが料理の味が濃いか薄いかということ。あっさりとした食べものにはさっぱりとした軽い味の酒が合うし、こってりとしたジューシーなものはしっかりとしたボディのある酒が合う。
前出の4タイプのチャートで見ると、「熟成タイプ」はチーズやうなぎなど、強いうまみを味わう脂身の強い食材に、「フルーティーなタイプ」は山菜や魚など、食材の味を活かしたさっぱりとした料理に、「コクのあるタイプ」は焼き鳥、豚の角煮など肉のうまみを活かした料理に、「軽快でなめらかなタイプ」は、だし巻玉子、刺身などあっさりとして後口が軽い料理に合う。
店で日本酒のリストを見てもどれがあっさりで、どれがコクのある酒なのか銘柄だけではわかりにくいので、ワインと同様、スタッフに酒の特徴を聞くのが一番。日本酒に力を入れている店なら、酒に関する情報がメニューリストの中に書かれていることも多いので参考に。
「今のように細かく酒の種類が分かれておらず、料理も和食だけの時代は、酒がメインで料理はつまみ、さんざん酒を飲んだあとにごはんを食べるというパターン。マリアージュという発想はなく料理は口直しだった。だからこそ一番シンプルなものは塩であり、塩辛いものがアテとして好まれていた。今はメインの食に合わせる食中酒として日本酒も捉えられている。和食だけでなく洋食も増え、日本酒も香りのあるものから古酒までバラエティーが豊かになってきたので、おのずと料理に合うもの、合わないものが出てきて、ペアリング、マリアージュが求められる時代になって来た。食中酒として日本酒はまだ確立されていないので、基本の合わせ方を踏まえながら、好きなものと合わせて、新しいマリアージュを発見するのも面白いのでは」(今田館長)
日本酒は冷、燗、常温とさまざまな温度で楽しめる酒でもある。約20度の「室温」、約40度の「ぬる燗」、約45度の「上燗」、約50度の「あつ燗」など、細かい温度でそれぞれ呼び名がある。熱くなるほど辛口に味が変わる。
振動を与えると味がまろやかになると言われており、マドラーでステアするのも良い。度数の高い日本酒をロックで飲むスタイルもあり、昔からプロの技として、飲みやすくするために燗をするときに少し水を混ぜて温める手法が用いられてきた。また、日本酒を飲む合間に一口飲む水を「和らぎ水」と呼ぶ。酔ってきたら薄めてアルコール度数を抑える、水を飲みながら日本酒を楽しむというのは日本酒の通人の間でよく行われている方法なので覚えておこう。
〇さまざまな酒器で相性を試してみる
お猪口、ぐい飲み、升、グラスなど好きな酒器で楽しめるのも日本酒の魅力。形、素材によっても味の感じ方が変わる。素材は口に付ける温度差により違いが出て、陶器や錫だと味わいがまろやかになるし、漆器やガラスの良さもある。洋食に合わせやすい切子グラスやワイングラスも今では一般的に使われている。
また器の径の大きさによって舌にある味蕾の刺激部位が変わり、味わいがかなり違ってくる。径が小さいと上から口に注ぐ形になり、細く一気に流れ込んでくるので、刺激が舌の真ん中にくる。径が広いタイプだとゆっくりと舌全体に味が広がる。
【AJの読み】自分好みの日本酒を知るには実際に杯を重ねよう
日本酒はちょっと……という人に聞くと「酔い過ぎる」「いろいろあってどれがいいのかわからない」という答えが多い。日本酒もワインと同様で、どんな種類があるのか基本を把握するとぐっとわかりやすくなる。とりあえず日本酒の分類「特定名称酒」と「普通酒」を覚えておこう。少しずつ違う銘柄を飲み比べできる酒店や飲食店も数多くある。自分好みの酒を見つけるには、杯を重ねてとにかく飲んでみよう。
文/阿部 純子