春休み恒例の『映画ドラえもん』シリーズ、今回の舞台は月! 映画を観れば月への憧れ、夢が膨らむこと間違いなしだ。ところで、ドラえもんのひみつ道具なしで月への旅行は可能なのか?日本で宇宙旅行を販売する「クラブツーリズム・スペースツアーズ」に聞いてみました!
宇宙旅行が実現する日が近づいてきた!
「宇宙旅行には大きく分けて、高度400kmの地球周回軌道を目指す『オービタル旅行』と100kmの宇宙空間を目指す『サブオービタル旅行』があります。後者に関しては早ければ年内、もしくは来年中の実現が期待されています」
とは、宇宙観光事業を目指す米国のヴァージン・ギャラクティックと、日本での販売の独占契約を結ぶ「クラブツーリズム・スペースツアーズ」の浅川恵司社長だ。
「ヴァージン社が事業に着手したのは2005年のこと。当初は2008〜9年には実現という予定でした。とはいえ、大型で重いものを宇宙に飛ばすのは容易ではありません。開発に時間がかかるうえ、事故などもあり10年以上の遅れが出ました。しかし昨年12月、同社の『スペースシップ2』が高度約80km(米国基準ではこの高度から宇宙空間)というテスト飛行を成功させました。あとはテスト飛行を重ね、連邦航空局(FAA)の認可を待つ流れとなります」
ちなみに『スペースシップ2』は全長約18mで、操縦士2人、乗客6人の8人乗り。母機となる航空機の下部に取り付けられて離陸し、高度15kmで切り離され、そこからロケットエンジンを使い、空中発射して宇宙を目指す。
「成層圏を突破後、100km付近で4〜5分の無重力状態と、宇宙空間からの地球の姿を楽しんだ後、地球に戻ります。往復で約2時間の旅になります」
ほかに「ブルーオリジン社」が進めるロケット+有人カプセルでの旅行も今年中の商業運航が期待されている。日本ではジェット燃焼とロケット燃焼を同一のエンジンで行なおうと開発を進める「PDエアロスペース」が24年の宇宙旅行開始を計画するなど、宇宙旅行実現への期待は高まるばかり。
数十年後には月旅行に行ける⁉
とはいえ、ドラえもんのひみつ道具なしに月旅行が可能になる日は来るのだろうか。
「まずはオービタル旅行でしょう。現在、高度400kmの軌道上にある国際宇宙ステーションを、2024年に退役させ、民営化させる案が出ています。民間企業が活用するとなれば、資本が一層投入され、ホテル機能を持たせるなど観光事業に力を入れるのは確実。20〜30年後には宇宙旅行が可能になるのではないでしょうか。
一方、月には水が存在することが最近わかってきました。水があれば燃料を作ることも可能ですし、別の資源もあるかもしれません。中国の月の裏側への探査成功もあり、アメリカやロシア、インド、日本といった国々も月面探査に力を入れ始めています。資源採取用のプラントなどができれば、次はやはり観光事業。実は月までは3日あれば行けるのです。往復で1週間、滞在1週間といった『月への2週間の旅』といったものも40〜50年で実現するはずです」
今回の映画を観て、子供たちと月への旅路を思い描いてみてはいかがだろうか。
クラブツーリズム・スペースツアーズ社長
浅川恵司さん
宇宙旅行の予約、販売を行なう傍ら、『集合、成田。行き先、宇宙。』『はじめての宇宙旅行』などの執筆も手がけ、宇宙旅行の普及に努める。
もうすぐひみつ道具なしで宇宙に行けるようになる!?
[1]宇宙旅行のお値段は?
写真提供/クラブツーリズム・スペースツアーズ
「ブルーオリジン社」の価格は未発表だが、「ヴァージン・ギャラクティック」の宇宙旅行は25万ドル(約2740万円)。「PDエアロスペース」は1700万円台を目指す。とはいえ、どこも将来的には数百万円の参加費用を視野に入れている。ちなみに、現時点で一般人が宇宙旅行に行くにはロシアの有人宇宙船「ソユーズ」への搭乗のみで、50億円以上が必要といわれる。
[2]今、予約しているのは何人くらい?
「ヴァージン・ギャラクティック」の宇宙旅行に予約しているのは世界で約700人。日本人では20人(男性16人・女性4人)。「青い地球を自分の目で見てみたい」「無重力を体験してみたい」など、予約の動機は好奇心から。最初に搭乗するのはヴァージン社会長のリチャード・ブランソン氏になっている。
[3]訓練は必要?服装はどうする?
サブオービタル旅行は数分間の無重力を体験するものなので、簡単な訓練を3日間と健康診断を予定。「ただ、特に復路は6Gという重力がかかり、健康面に不安のある方は乗れない可能性も」(浅川さん)。フライトスーツは現在開発中で、デザインは日本人のファッションデザイナー・山本耀司さんが担当する。
月ってどんな天体?
アポロ11号の着陸から50年、今回ドラえもんたちが訪れる月が誕生したのは約46億年前。地球からは38万4400km離れている。実は西洋ナシに似た形をしており、直径3474km、表面積は3793万㎢。大気はほとんどなく赤道付近で昼は約110℃、夜はマイナス約170℃と温度差が激しい。また重力は地球の約6分の1。中には空洞があり、そこを月面基地として利用する計画もある。
ゲスト声優として出演するお笑いコンビ・ロッチの中岡創一とドラえもん、のび太はNASA(米航空宇宙局)の施設で月の重力を体験!
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』3月1日全国ロードショー
シリーズ39作目となる本作の舞台は月。月を舞台にドラえもんとのび太たちが大冒険を繰り広げる。ゲスト声優には広瀬アリス、ロッチ・中岡創一のほか、サバンナ・高橋茂雄、柳楽優弥、吉田鋼太郎といった豪華キャストが集結。新進気鋭のアーティスト平井大が主題歌を担当。脚本はドラえもんの大ファンを公言する直木賞作家の辻村深月が務める。詳しくは下のインタビューで!
月を舞台に大冒険が始まる!
すっかり仲良くなったドラえもんたちとルカ、ルナたちの前に謎の宇宙船が現われる! はたして彼らの正体は?
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019
取材・文/武内しんじ
小説家・辻村深月インタビュー「藤子先生のお手伝いなんだと思って書きました」
『ドラえもん』の大ファンとして知られる小説家の辻村深月さんが、大長編の脚本家に抜擢された。原作ファンだけでなくミステリーファンも楽しめる『のび太の月面探査記』は、どのように完成されたのか?
作家 辻村深月さん
つじむらみづき●1980年、山梨県生まれ。小説家。2012年に『鍵のない夢を見る』で直木賞を、2018年に『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。最新刊は『小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記」』。
ネックレス/のび太の月面探査記ポケットウォッチネックレス 2万8000円 指輪/さくら練り切りリング 6500円
問い合わせ先/Q-pot. 表参道本店 ☎03・6447・1217
©Fujiko-Pro,Shogakukan,TV-Asahi,Shin-ei,and ADK 2019 ©Gramme Co. ©Fujiko-Pro,Shogakukan,TV-Asahi,Shin-ei,and ADK ©Gramme Co.
辻村深月の長編第3作『凍りのくじら』には、次のような一文がある。「人生で大事なことは全て、『ドラえもん』と藤子・F・不二雄に教わった——。」その一文は、作家の実感でもある。
「未知の世界を冒険することの楽しさや不思議さ、友情の大切さや恋愛でときめく感覚は、『ドラえもん』で初めて出会ったと思っているんです。私は普段ミステリーを書いているのですが、『ドラえもん』はミステリーとしても素晴らしいんです。例えば、『のび太の大魔境』の中に、“10人の外国人が王国を救う”という言い伝えが出てきます。ドラえもんたちを指しているんだとすると、5人しかいないから数が合わない。その謎が“そういうことか!”と明かされるのと同時に、感動のクライマックスを迎えるんです。自分もそういうお話を書いてみたいな、という思いが、私の書く小説に影響を与えていることは間違いありません」
ならば脚本のオファーが届いた時、即座に引き受けたかと思いきや、最初は断ったという。
「自分なんかがおこがましいという気持ちも強かったし、ファンという立場のまま『ドラえもん』の映画を観続けたいと思いました」
だが、制作サイドはラブコールを送り続けた。彼女が覚悟を決めた理由のひとつは、藤子先生のチーフアシスタントをしていた、むぎわらしんたろうさんの言葉だ。
「藤子先生が『のび太のねじ巻き都市冒険記』の途中で亡くなられた後、引き継いで描かれたのが、むぎわら先生でした。当時のお話を伺っているうちに、ファンとしては毎年春に『ドラえもん』の映画が公開されるのは当たり前のことだと感じていたけれども、“誰かが藤子先生の思いをつなげてきたから、観ることができたんだ”と実感できるようになったんです。私もその“誰か”のひとりになって、次の年につなげるお手伝いをする。そんな年があってもいいんじゃないか、と思ったんです」
キーになるひみつ道具は「異説クラブメンバーズバッジ」
構想を進めるにあたり、最初に決めたのは、ドラえもんたちが冒険する舞台だったそう。
「スタッフさんは毎回、これまでの作品と舞台がかぶらないよう悩まれるそうなんです。確かに、新しく出かけられる場所は残っていない(笑)。そんな時にぱっと思いついたのが、誰にとっても身近な存在で、すぐそばに見えるけれども、実際に行こうと思うとすごく大変な、月でした」
八鍬新之介監督の提案で、物語のキーとなるひみつ道具には原作にある「異説クラブメンバーズバッジ」を採用した。そのバッジを着けた人は、現実にはあり得ない「異説」の世界を体験できる。月の「異説」の世界へと、ドラえもんたちは大冒険に繰り出すことになる。
「映画を観終わった後で月を見た時、“あそこに友達がいるかもしれない”と思ってもらえるものを作るのが一番の目標でした」
まだ行ったことのない場所に、大切な人がいるかもしれない。そんな希望を、大長編『ドラえもん』はプレゼントし続けてきた。先人たちからのバトンを受け取った辻村さんもまた、その希望を描くことに尽力。そのうえで、自覚的に取り入れた要素があった。
「藤子先生からいただいたものを、今回の脚本で少しでもお返しできるとしたら、ミステリーとしてのカタルシスがある物語を書くことだと思いました。“だからこの道具だったんだ!”と驚いた瞬間、感動できる物語。私自身もそのアイデアを閃いた時、実はちょっと感動したんです。だって、藤子先生が作って残してくれた道具のおかげで、私たちの生み出した登場人物たちが救われるんですから」
かくして辻村深月さんだからこそ書けた、唯一無二の脚本が完成した。驚きのラストはぜひ劇場で!
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』: https://doraeiga.com/2019/
取材・文/吉田大助 撮影/黒石あみ(小学館) ヘアメイク/安田有香(air)