ここ数年続いているSUVの人気はまだまだ続きそうだ。自動車メーカーも次々に新型SUVを発表。特に最近では、高級ブランドから高性能なSUVが登場している。ポルシェ、ベントレー、マセラティ、ランボルギーニに次いで、アストン・マーティンやロールス・ロイスもSUVをラインアップに加えた。こうしたラグジュアリーブランドの中で、注目したいのが、アルファ ロメオだ。
アルファ ロメオは、あらためて言うまでもないが、1910年に創業したスポーツカーを中心に展開しているイタリアの自動車メーカーだ。1930年代から世界のスポーツカーやレース界をリードしてきた伝統あるブランド。フェラーリの創業者、エンツォ・フェラーリも、アルファ ロメオのレースチームの監督を務め、その名を知られたと言われている。
アルファ ロメオは1950年代に既にSUVを造っていた!?
創業100年を超える超名門のアルファ ロメオが、満を辞して、昨年投入したSUVが「ステルヴィオ」。アルファ ロメオ初のSUVということで話題を集めている。最近の高級SUVの多くは〝メーカー初の〟と謳っているが、実はアルファ ロメオだけは、1950年代に、ジープタイプのオフロード4WDを生産しており、そのことはあまり知られていない。他のブランドに比べ、4WDでの走行性能が秀れているのも、実はこうした長い歴史で培われたノウハウが注ぎ込まれているからだ。
楯をイメージした中央のグリルと左右に広がるグリルはアルファ ロメオ伝統のデザイン。つり目のヘッドライトも最近のトレンド。エンジンフードやフロントフェンダーにアルミを使用。
高めに位置しているテールランプは、4ドアセダンの『ジュリア』と共通のデザイン。リアゲートの開口部も低めで使い勝手はよい。リアゲートにもアルミを用いて、軽量化に貢献している。
アルミ素材はドアの外板にも用いられている。ウエッジシェープのボディーがクーペルックを引き立てる。ホイールベースの中央にドライバーが座る設計は、スポーツメーカーならでは。
「ステルヴィオ」の開発にあたって、アルファ ロメオの技術者たちは、まず最初に他のスーパーSUVとの差別化を考えたという。長い同社の歴史の中で、レースやラリーなど走りの性能を極めてきた実力は、他メーカーも認めるほどハイレベルだ。ならば、そこを生かしたSUVを造ろうということで、開発をスタートさせた。
ベースとなるシャーシは、アルファ ロメオが2017年に日本で発売したアッパーミドルセダン「ジュリア」で初めて実用化した新プラットフォーム「GIORGIO」だ。2016年にドイツのニュルブルクリンクの北コースで、4ドアサルーン市販車の世界最速タイムをたたき出したシャーシをベースに、2つのパワーユニットを用意した。1つは今回、試乗した直列4気筒のDOHCターボ、2.0ℓ。280PS、400Nmを発揮する。もう1つはV6、DOHC、2.9ℓツインターボで、510PS、600Nmというハイパフォーマンスエンジンだ。
4気筒エンジンは縦置き。フロントエンジン、リア駆動をベースにした4WDは、駆動力前60%、後100%を上限に設定。
後者を搭載した「クアドリフォリオ」は、2017年にニュルブルクリンクのコースで〝量産SUV最速〟の称号を得ている。どちらも駆動方式はフルタイム4WD。FRレイアウトをベースにした4WDシステムは、路面の状況により前60対後40から前0対後100%まで駆動力を配分し、高速道路からワインディングまで、ドライバーの思い通りのラインをトレースしてくれる。
街乗りだけでなく、峠道も軽快かつ俊敏に駆け抜ける万能SUV
今回、試乗したのは、2ℓターボモデル。ボディーカラーは、上質感溢れるストロンボリグレー。かつて、レース界を席巻したレーシングカーにも使われていた定番カラーのアルファレッドもいいが、クールな表情を見せてくれるこの色もスタイルにこだわるユーザーの心をきっと満たしてくれるはず。アルファ ロメオのシンボルである兵士の楯を模倣したフロントグリルからはじまるボディーラインは、美しく、上品にまとまっている。アルファ ロメオが100年以上も追い求めてきたスピードとフォルムの美しさの集大成といっても過言ではない。
ハンドリングと乗り心地は、センターコンソールにある新型Alfa DNAドライブモードシステムのダイヤルでコントロールできる。これにより、クルマの反応を自在に変化させ、走行状況に応じて走りをカスタムできる。ちなみに、n(NATURAL)が標準モード的なセッティング。それでもスタートからのダッシュは鋭く、エキゾースト音も3500回転を境に乾いたクオーンという快音に変わる。
2個の大径メーターがダッシュボードの上まで盛り上がるデザインはアルファ ロメオの伝統。インフォテインメントも充実。
0→100km/h加速は、手元のストップウォッチでも7秒台。2ℓクラスのSUVとしてはかなり速い。d(DYNAMIC)を選択すると、アクセルレスポンスは1800回転からかなり俊敏になり、音も2500回転から変わる。それはスポーツカーそのもののサウンド。SUVを操っていることを一瞬、忘れそうになる。
全長4.7m、全幅1.9mというサイズを感じさせない軽快なハンドリングが楽しい。やや軽めの操舵感とクイックな操縦性が特徴。何といってもステルヴィオが楽しいのは峠道だ。Dレンジをキープしていてもよいし、Mレンジで手動シフトをしても楽しい。パドルはレーシングカーのようにコラムから生えているので、ハンドルを動かしながらでも正確にシフトできる。こういう細かいセッティングがスポーツカーメーカーならではの面白いところだ。
スポーツモデルを意識したSUVということもあり、スタート・ストップボタンはF1マシンのようにハンドルスポークの横に配置。パドルシフトレバーもコラムから直接、出ているので常に正確にシフトできる。
ドライブモードはd(ダイナミック)、n(ナチュラル)、a(エコ)の3つのモードをダイヤルで選ぶ。ここでエンジン、サスペンション、変速機などのプログラムを変更する。
居住空間も後席や荷室が広く、実用的。気になる乗り心地だが、高速道路は硬めだがフロントの吸いつき感がよいdモードが良かった。峠道もdモード。街中はnモードが、適度にスポーツ性も味わえるのでベスト。レーダーとカメラによる安全デバイスも充実している。iOS、AndroidとのマッチングもOKなのでコネクト環境も申し分ない。
大きめのシートは見た目以上にしっかり体をホールドしてくれる。後席は座面の前縁がやや高めで、足元がやや狭い。
奥行きは約1mあり余裕がある。トノカバーも床面から約520mmと広い。床面は開口部と同じ高さでサブトランクもある。
ライバルがひしめく高級SUVカテゴリーの中で、アルファ ロメオ「ステルヴィオ」は、美しいボディーフォルム、秀れた4WD性能、最新のコネクト、コストパフォーマンスの良さで、トップレベルの1台といえる。
アルファ ロメオ「ステルヴィオ」
■全長×全幅×全高:4690×1905×1680mm
■ホイールベース:2820mm
■車両重量:1810kg
■排気量:1995cc
■エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
■最高出力:280PS/5250rpm
■最大トルク:400Nm/2250rpm
■変速機:8速AT
■燃費:11.8km/L(JC08モード)
■車両本体価格:689万円
■関連情報
https://www.alfaromeo-jp.com/models/stelvio/
取材・文/石川真禧照 撮影/望月浩彦
協力/FCAジャパン