■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はソフトバンクの通信障害について議論します。
原因はMMEの証明書の期限切れ?
房野氏:2018年12月6日にソフトバンクの携帯電話がつながらなくなりました。午後1時半過ぎから6時頃まで、約4時間半の通信障害だったのですが、なぜ起きたのでしょうか。エリクソンのMMEという設備が原因とされていますが。
石野氏:一言でいうと、MMEという設備の証明書が更新されていなかったためだそうです。MMEは「Mobility Management Entity」という言葉の略で、ニュースとかではパケット交換機といわれていますけれど、実際はパケットを交換する前の設備です。証明書の不一致、期限切れで利用できなくなってしまい、通信が切断されることになりました。そして、再接続しようとする端末がどんどん増えて輻輳(ふくそう・物事が集まり込み合うこと)が起こり、ネットワークが一斉にダウンしてしまった。エリクソンの規模が大きかっただけに起こった通信障害ですけど、原因が初歩的で、しかも同じミスが全世界で起こってしまっている。結局、証明書の問題だったりするので、機械を変えればいいわけでもないですし、AIを使って予測できるようにするとか、そのくらいの方法しかないのかな。
石川氏:証明書の期限が切れるなんてことは、想定されていないことだと思うし、国が再発防止策をちゃんとしなさいとキャリアに言っても、証明書が切れるなんてことは、そもそも想定していないものなので、どうがんばっても改善できるものではないという気がする。なので、ユーザーとしては複数回線を契約して持っておくってことに尽きるかな。
法林氏:そこは切り分けた方がいいよね。原因の話と、ユーザーがどう対応するかは別の次元の話。とあるジャーナリストが、テレビで「初歩的なミス」と言っていたけれど、あなたはサーバを触ったことがあるのかと聞きたい。今回、エリクソンはそう説明したけれど、普通、証明書が切れて、だからサーバが落ちるというレベルのことは起きないんですよ。何個もフェールセーフ(システム上で、操作ミスや故障などでトラブルが発生した場合に、その被害を最小限に抑えるように制御する仕組み)がかかっているはず。だから、それじゃない原因が別に何かあると思う。
房野氏:エリクソンは原因を隠してるってことですか?
法林氏:いや、隠しているのではなくて、内部構造の話を含んでくるので、詳しく説明できないんだと思います。下手に明かすといろいろな影響があると思うので、たぶん、詳しいことは言わないと思う。普通、サーバのソフトウェアを更新するときって、万が一うまく動かなくなった場合を想定して、テストも含めてだけど、いろいろやるはずなんですよ。何重にもチェックがかかる。macOSをMojaveにしたら遅くてちょっとダメでしたみたいな、そんなレベルの話ではない。ましてやMMEですから、そんな簡単な話ではないと思う。証明書が更新されない状態でやっちゃいましたという初歩的なミスではないと思っている。もしあるとしたら、作業員の1人が手順を守らず勝手にやっちゃったということは、ありえるかもしれないけれど、普通はありえない。特に何千万人の加入者が関わるようなことに、リテラシーの低いスタッフが触るようなこともありえない。ましてや全世界的な規模のことなので、もうちょっと違う理由があるはず。普通に考えて、リリースや報道で言われているような、初歩的なミスでした、申請書の更新を忘れました、というレベルではないと思う。以前、とあるパソコンソフトのデジタル証明書が更新されないことによるトラブルがあったけれど、そういうことって、事前にある程度わかるはずなんですよ。今回はそれすらない状態でドスンと落ちたので、ちょっと変かな。僕はエリクソンの説明を聞いていないんですけど。
房野氏:障害の翌週にメディアブリーフィングがあって、一部説明があったのですが、リリースの内容以上の情報は出ませんでした。
法林氏:記事に書かれていることやリリースに書かれていることを読む限りでは、何かほかに原因がありそうな気がしますね。
石川氏:あくまで第一報なので。
法林氏:あとはもう、好き嫌いというか、読者のみなさんがどう思うかとか、業界関係者がどう思うかだけど……ソフトバンクが「サーバが落ちました、すみませんでした、エリクソンがやらかしました」というように、ベンダーさんの名前をリリースに出したのが良かったのかどうかは、少し議論の余地があるかなって気がしました。
石野氏:普段は隠すのにね。
法林氏:正確に覚えていないんだけど、3、4年前にKDDIが障害を起こしたよね。
石野氏:2013年に、同じMMEでした。
法林氏:あのときはベンダー名を明かしていないんだよね。
石野氏:かたくなに言わなかった。
法林氏:田中さん(前社長の田中孝司氏)が絶対言わなかったんだよね。
石川氏:ただ、今回は世界的に障害を起こしているので。
法林氏:言わざるを得ない。
石川氏:そうそう、言わなくてもわかる。
石野氏:普段、ベンダー名を隠すから、こんなときにだけ言うんだと批判される。普段から情報公開を積極的にしておけば、こんなことは言われないはずなので、ソフトバンクは反省すべきところだなと。
法林氏:僕らは端から見ているだけなので、本当かどうかはわからないけれど、よく業界内で、ソフトバンクは基地局設備に関してはエリクソンに丸投げ状態だといわれている。そういう言われ方が少なからず出てきている中で、こういうトラブルが起きたので、「あなたたちがちゃんとコントロールしていないから、こんなことになるんだ」という言い方をする人がいるのは事実。