撮影をしていると最前列の輸送指令員が大きな声でやりとりを始めた。どうやら駅で列車防護スイッチ(列車を緊急停止させるスイッチ)が取り扱われたそうだ。すぐさまに現場とのやりとりが総合表示盤に手書きで復唱されながら明記されていく。システム自体はもちろん自動化されたデジタルシステムだが、こうしたイレギュラーな事態はやはりお互いの肉声での確認に勝るものはない。「どこで? いつ? だれが? どうした?」といった基本的な情報がきちんと確認され、速やかにまとめられていく。幸い、すぐに安全が確認されたので、速やかに運転再開がなされた。最後に当該列車の遅れを一斉にみんなで把握して一連の事態は収束した。
イレギュラー時には、直筆&肉声ですぐさま全体に情報を共有する。
……と思ったら、また列車防護スイッチが取り扱われたようで再び指令員たちが動き始める。今回、取材として指令室で取材できたのは約30分。この間に2回というのは多いと思うかもしれないが、新幹線の運転本数と管理距離を考えるとそんなでもない気もする。JR東海関西広報室黒田さんは、「駅などでは、何か起きる前に列車を停めるというのが基本動作。少しでも安全に疑問が残るようなら、必ず停めて安全を確保してから列車を発車させるという考えです」とのこと。そして、この回数は「特に多いわけではないです」と付け加えた。
後方に座る指令員は、「総合表示盤」を確認するため双眼鏡を使うことも。
最後に担当3社の指令長が集まり今回の訓練、そして日々の指令業務について語った。
右から
JR西日本 東京新幹線総合指令所 総括指令長 笠浪 正彦さん
JR東海 運輸営業部輸送課 輸送指令長 小村 勝夫さん
JR九州 東京新幹線指令 東京統括指令長 牧野 和也さん
「先輩からも指令員の仕事は簡単には務まらないとアドバイスをもらった。新幹線を止めるのはお客さまはもちろん、〝日本経済も止めてしまう〟ということでもあると責務を感じています」(JR東海 小村 勝夫 輸送指令長)
「日本を代表する新幹線を支えている、というプライドをもとに日々の業務と訓練に当たっています」(JR西日本 笠浪 正彦 統括指令長)
「九州新幹線全線開業以降、山陽新幹線との直通運転を実施し多くのお客さまを輸送しているという高い意識のもと、各社員指令業務に当たっています」(JR九州 牧野 和也 東京統括指令長)
高いセキュリティに守られた新幹線の頭脳は、最高峰のシステムとたくさんのプロフェッショナルな人たちのチームワークとプライドが集結していた。
取材・文・撮影/村上悠太