そう、このキュルキュル音こそが、ドキドキの主要因です。そもそもメーカー側としてのアイドリングストップの本来の狙いは、停止時の無駄なガソリン消費を減らして燃費を向上させようというもの。これは低燃費や環境問題に注目が集まる昨今、大きなメリットになるはずです。しかし一方で、バイクの場合はバッテリーが小型で容量が少ないといった問題から、必要以上にセルスターターを回すとすぐにバッテリーが上がってしまう、というデメリットがあります。
スペースの余裕がないうえに、少しでも軽くして運動性能を維持したく、さらにコストにもシビアなバイクは、設計条件がかなり厳しい乗り物です。ギリギリのところで成り立っている箇所だらけで、電気まわりはその最たるものと言えます。エンジン停止→再始動を高頻度で繰り返すことは、バッテリーだけではなく電気系統全体に大きな負荷をかけ、トラブルを招きかねません。セルスターターのキュルキュル音に漂う緊張感が自動車の比ではないのは、こういった理由があります。
また、エンジンの再始動性自体があまり高くないバイクもあります。うまくかからずオタオタしている間に後続車に追突される恐れも。その場合、体剥き出しのバイクは大きなダメージを受けてしまいます。
と、いった具合に、バイクのアイドリングって、ここではまったく書き切れないほど奥深いんですよ……。アイドリングをした方がいい、しない方がいいという「アイドリングの是非」、あるいはアイドリングは○分以内といった「アイドリング許容時間」に関しては、取扱説明書や販売店のアドバイスに従うのが1番です。
差し当たって、アイドリングストップ機構が標準装備のスクーターなら、状況によってアイドリングストップ機能が作動しない自己防御機能も搭載されており、低燃費、そして静粛というメリットを存分に享受できます。そうではないバイクで自分でアイドリングストップする場合は、メリット/デメリットを精査考慮したうえで自己責任で、というありがちなオチになりますが、これこそが冒頭の「もったいぶった曖昧な言い回し」の理由です。
取材・文/高橋剛