飛鳥時代の昔から現代に至るまで、液体調味料として不動の地位を誇る「醤油」。
醤油は、かつては味噌とともに各農家・家庭で作られていた。今は機械化によって短期間に大量生産される大手メーカーの醤油が大きなシェアを占めるが、伝統的な手作り・無添加の醤油も見直されている。そうした、昔ながらの醤油の普及の一翼を担っているのは、各地の比較的小規模な醤油醸造場だ。
「もろみ」ごと味わう醤油
京都府綾部市の今しぼりもその一つ。移住してきた9家族で運営される醤油醸造場で、化学的な添加物など一切加えず、2年もの期間をかけ醤油を作り上げる。醤油樽で熟成している「もろみ」(原料の大豆・小麦が発酵して柔らかくなったもの)を火入れせず、もろみの状態で食卓へ届けられるのが、同社の製品の特徴だ。
看板製品の「今しぼり醤油」(下写真)は、香りは普段の醤油とあまり変わらないが、半固形となっている。
これは、もろみそのもの。この状態で調味料として使ってもよいし、布などで漉して液体にしてもよいという(漉した固形のもろみも食べられる)。また、同社では、特製の卓上醤油しぼり器も出している。
今しぼり社が、「自分で仕込んだ、できたての醤油を食べるよろこび」を、大量生産された醤油しか知らない現代人に味わってもらおうとできたのが、今回紹介する「育てる醤油」だ。
「育てる醤油」は、いわば醤油を自分で作るキット。袋入りの醤油麹、円筒形のガラスビン、木の蓋からなるシンプルな構成となっている。肝となる「醤油麹」は、昔から各地で伝承されてきた古式醸造法と同じ製法でできあがったもの。茹でた大豆と炒った小麦に麹菌をまぶし、温度・湿度を管理しながら3日かけ、麹菌をまんべんなく繁殖させる。その後で塩を115g混ぜ、ビニール袋に入れてできあがる。この醤油麹が、醤油の「種」の働きをする。