過ぎたるは猶及ばざるが如し
味事飯鍋はIH非対応である。
ただ、この点は逆説的な意味で極めて重要ではないかと筆者は見ている。
IH製品とは、言い換えればオール電化を前提にした製品だ。しかし今、家電量販店ではカセット式ガスストーブが売れているという。特に北海道ではそれが顕著だそうだ。理由は今年9月の北海道胆振東部地震である。
この地震は道内全域に長時間停電を及ぼした。災害発生が残暑漂う9月だったのは幸いかもしれない。もしこれが1月の真冬だったらどうだろうか。オール電化の家庭では、極寒を乗り越えるのは厳しい。
だから非常用にカセット式ガスコンロを家のどこかに忍ばせておく。オール電化は利便性に優れているが、それのみに依存すると緊急時の対処ができないということだ。味事飯鍋は「オール電化に対応できない製品」ではなく、「オール電化に完全依存しないための製品」と表現するべきである。
我々は「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉の意味を噛み締める必要がある。
付加価値は職人の掌から
味事飯鍋は1合用、2合用とふたつの容量を用意している。
1合用は大人ひとり分の量に過ぎないが、だからこそ「自分専用の使い方」を見出すことができる。箸のように、自分以外の誰にも使わせないもののひとつになるはずだ。
何よりも、「自分だけの本物」を持つというのはこの上ない贅沢である。
湖東焼という伝統工芸は、実はそこまで長い歴史を有しているわけではない。その始まりは19世紀からである。だがこの伝統工芸は激動の時代に蘭の如く咲き乱れ、日本史の光景に文字通り華を添えたのだ。
さて、此度の主役である味事飯鍋はMakuakeで1万6200円(1合用・10月30日現在)からの出資枠を公開している。大量生産ではない、職人がひとつひとつ手がけた土鍋と考えれば決して高くはない。しかしこの記事で、単に「値段の安さ」を強調することは筆者の本意ではない。重要なのは付加価値である。
「弟子に作らせて自分の名前だけを入れるということもできますが、それをやったら心に疚しさが残ります」
数字としての資金を稼ごうと思えば、他に効率のいい方法はいくらでもある。だが職人というのは、自分の掌に魂を乗せてモノを作るが仕事だ。
この時モノに込めた魂が、時を経て「付加価値」と呼ばれるようになる。
【参考】自宅で手軽に料亭気分。 一志郎窯の土鍋「味事飯鍋」で白いごはんをごちそうに。-Makuake
取材・文/澤田真一