本物の米飯
もとは足軽組屋敷だったという彦根市内の邸宅で、筆者は中川氏とテーブル越しに向き合う。
音らしい音は一切聞こえない。街中に音楽の溢れた現代だが、職人とふたりで会話をするのには不要だ。
その最中、テーブルの上に置かれたカセット式ガスコンロは味事飯鍋を加熱し続ける。
米と水をこの土鍋の中に入れ、強火で炊く。中の水が吹き上がるまでは終始火力を変えない。やがて湯が鍋の蓋から溢れ出そうになったら、完全に火を止めてしまう。あとは20分ほど待つだけだ。この時、鍋の中の余熱が固い米を豊潤な銀シャリに仕上げる。
味事飯鍋の使用方法としては、これだけだ。土鍋で飯を炊くというからてっきり大がかりなものかと思ったが、その心配は覆されてしまった。
この白米を、白菜の漬物と一緒に食べてみる。だがそれを口につける前から、筆者は驚愕していた。米には一切ベタつきがなく、箸から1粒1粒舞い落ちてしまいそうな手応えなのだ。
それでいて、いざ食べてみると非常に柔らかい。もしこれが「本物の米飯」なのだとしたら、筆者は未だそれに巡り合っていなかったということになる。
この食感が癖になったら、もう電気炊飯器には戻れそうにない。