◆覚醒をつかさどる神経伝達物質「オレキシン」が快眠へのカギ?
なかなか寝付けない、夜中に何度も起きてしまう、眠ったはずなのにぐっすりと眠った感じがしないなど、生活習慣やストレスなどで、睡眠に関する悩みを持っている人も多い。ただし、すべてが「不眠症」というわけではなく、日中に眠れないことによって、何かしらの弊害が出たときに、治療を要する「不眠症」として扱うことになる。
日本睡眠学会の定義によると、寝つきの悪い「入眠障害」、夜中に目が覚めてしまう「中途覚醒」、きちんと寝ているのに熟睡感が得られない「熟眠障害」、朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」のいずれかの症状が、週2回以上かつ1か月以上続いて、苦痛を感じたり、仕事などの社会生活に影響が出ているケースを「不眠症」と呼んでいる。
厚生労働省の「睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン」(2014年7月改訂)によれば、日本において、睡眠の質の低下や、なんらかの不眠症状に悩む人は成人の30%以上に上るといわれており、先に挙げた4つの「不眠症」の定義に当てはまる不眠症人口は、成人の6~10%にも上るともいわれている。
不眠症で治療を行うときは、専門医の指導のもと、睡眠衛生指導や薬物療法が行われるが、今まで処方されていた睡眠薬の多くは「GABA受容体アゴニスト」タイプだ。GABAは脳内に広く分布する抑制性の神経伝達物質で、さまざまな神経の活動を抑制することで眠りをもたらす。いわば“脳全体をシャットダウンする”タイプの薬だ。
2010年に登場し、一般でもよく知られるようになったのが「メラトニン受容体アゴニスト」。メラトニンは脳内の体内時計によって分泌が調整されているホルモンで、夕方から分泌が始まり、真夜中に血中濃度が最も高くなり、朝になると分泌が止まる。メラトニンの分泌によって脳の活動は抑制され、分泌から1~2時間で自然な眠気が生じる。「メラトニン受容体アゴニスト」は、メラトニンの受容体に結合して、睡眠や、覚醒のリズムを整える薬だ。