「ベンテイガ限定のオプショナルで、価格はクルマの半額の15万ユーロです」
ベントレーのCEOウオルフガング・デュラハイマー氏は自信満々に勧めていたけれども、15万ユーロということは日本円で約1950万円だ。
時計ひとつで1950万円!
高級時計ブランドの、トゥールビヨン機構を備えた腕時計もみんな1000万円以上はするから特に驚くには値しないけれども、そんな高価な時計が装着できるクルマなんて今まで存在していなかった。
「クルマに装着される時計として、史上最も高価な時計だ。同じものがテーブルクロックとしても用意してある。ひとつはクルマに、もうひとつはリビングルームにどうぞ」
デュラハイマー氏には、彼がポルシェの開発担当取締役だった頃から何度かインタビューしたことがあるけれども、マジメ一徹を絵に描いたような人で、こんなジョークを言うなんて知らなかった。トュールビヨン時計のメカニズムは金で造られており、ローズゴールドもしくはホワイトゴールドを選ぶことができる。文字盤はマザーオブパールかエボニーパールの2種類。8つのインデックスにはダイヤモンド。
面白いのは、このトゥールビヨン時計は2時間ごとに時計全体を回転させられ、内部のゼンマイを巻き上げる。その動力は『ベンテイガ』のバッテリーからきている。それならば、その電力で動くクォーツ時計を置けばいいじゃないかと考えてしまうが、それは標準装着されている。
単に時刻を知るためならばそれで事足りるわけだ。機能から大きく超越した贅沢がトゥールビヨンであり、また『ベンテイガ』というクルマそのものである。トゥールビヨン時計をオプションに設定するという企画はベンテイガならではのものであり、また『ベンテイガ』というクルマの本質を象徴している。
文/金子浩久(かねこ・ひろひさ)
モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。