近頃馬肉の人気がうなぎのぼりだ。低カロリーなのに栄養価が高いうえ、馬刺し、つまり生食が許されていることも注目に値する。
しかし、馬肉の食文化が定着している県は熊本県や福島県、青森県など一部の県のみ。他県民にとって、馬肉は知らないことだらけなのも事実。そこで、馬肉生産量のトップに君臨する熊本県で馬肉のイロハを学んできた。
訪ねたのは、熊本空港から車で約20分。九州中央自動車道小池高山ICにほど近い御船町の千興ファーム。日本で唯一の馬肉専用と畜場と生食専用工場を有する、馬刺し・馬肉生産高日本一(2016年1月東京商工リサーチ調べ)の企業だ。
千興ファームの川野幸徳さん(左)と村上祐一さん(右)
馬肉文化が熊本に根付いた理由
いろいろ説はあるものの、加藤清正の影響が大きい。彼は戦の時に馬をよく利用したため、馬が倒れることも多々あった。それを最終的に捨てるのではなく、食料としたのが始まりとの説が有力だ。
さらに、熊本は海と山に囲まれ、鹿児島や宮崎、大分に行くには険しい峠を越えなければならない。限られた土地で食文化を育てていくためには、昔から農耕で使っていた馬を大事に利用したことも影響している。
とはいうものの、熊本県民が日常的に馬肉を食べているわけじゃない。とくに馬刺しは年々高価になり、ハレの日・接待・おもてなし等の逸品との認識も高い。
なぜ馬だけ刺しで食べることができるのか
馬の体温は40度近い高温なので、牛や豚に比べて寄生虫が少ない。加えて、馬刺し用の肉はマイナス20度で48時間以上の冷凍処理をすることが義務付けられ、そのまま食べても安心な体制が整っている。
ただし、馬肉は鉄分が多いため、空気に触れると変色しやすい。同社ではと畜から製品製造までわずか3時間でできる専用工場を持っているので、衛生面と見た目の美しさの両方を兼ね備えた「鮮馬刺し」を作ることができるわけだ。