虐待を疑われても有効な対応策はないのが現状
仮に、身に覚えのない虐待の嫌疑をかけられ、親子分離の危機が迫ってきたら、親としてどうすべきだろうか?
本書では「残念ながら、手立てはありません」という。「不服申し立て」を自治体の長にするという選択肢があるものの、「家庭裁判所の認容〈児童相談所支持〉約8割、不服取り下げ約2割弱」と、成功例はほとんどない。
まず重要なことは、「目の前の児童相談所職員にクレーマーと思われないこと」だという。そして、児童相談所が望む「環境づくり」、「生活態度」、「子どもへの対応」などを整えるようにとも。
もっとも、一度疑われたら泣き寝入り、という状況は改善に向かっているようだ。例えば、2月には国際シンポジウム「揺さぶられる司法科学−揺さぶられっ子症候群(SBS)仮説の信頼性を問う−」が開催されるなど、急性硬膜下血腫などの症状が、イコール虐待によるものという認識が揺らぎつつある。
とまれ、本書の著者である西本博医師、藤原一枝医師の見解は、「児童虐待防止の声が強くなった社会で、頭のケガをしただけで両親や家族が疑われるのは寂しすぎます」と明快だ。乳児の急性硬膜下血腫は家庭内の転倒事故でも起こりうるということを、関係者のみならず我々も知ることが、乳児虐待の冤罪を防ぐ一つの手段となるはずである。
西本博医師プロフィール
1948年東京都生まれ。小児脳神経外科医。日本大学医学部卒業後、脳神経外科学教室入局、米国マイアミ大学脳神経外科留学を経て、埼玉県立小児医療センター脳神経外科部長・副院長を歴任。現在、竹ノ塚脳神経リハビリテーション病院勤務。『小児脳神経外科学改訂2版』(金芳堂)など著書多数。
藤原一枝医師プロフィール
1945年愛媛県生まれ。小児脳神経外科医。岡山大学医学部卒業後、日赤中央病院・国立小児病院を経て、東京都立墨東病院に就職、1999年同病院脳神経外科医長退職後、非常勤を継続中。1999年より藤原QOL研究所代表。『おしゃべりな診察室』(講談社)、『まほうの夏』(岩崎書店)など著書多数。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)