E Inkディスプレイを採用
そこで東山氏が着目したのが、新技術E Inkの電子ペーパーディスプレイである。
Kindleを始めとした電子書籍端末で採用されているものだが、これは端末本体の電源が落ちても表示が消えないという特性を持っている。E Inkを電子メモに用いれば、省電力機能と表示の維持を両立できるのだ。
このE Inkを導入したキングジムの新製品が『カクミル』である。これは現在、クラウドファンディング『Makuake』で資金調達を行っている。
「ですが、社内会議ではカクミルの商品化は反対されました。似たようなコンセプトの製品がすでにあるということと、E Inkは液晶に比べて反応速度が若干遅いということが指摘されてしまいました」
本来ならカクミルの命運はここで尽きていただろうが、現代にはクラウドファンディングという手段がある。
Makuakeにカクミルを出展し、期限内に出資が集まれば商品化するということがキングジム社内で決定されたのだ。目標品額は1000万円。オール・オア・ナッシング方式で、もし1000万円に満たなければプロジェクト自体を終了させるという条件である。
「消えない表示」の革新性
さて、筆者である澤田真一はあくまでも無頼のノンフィクションライターだ。ある会社の製品が市場に流通するか否かは、筆者の煩慮に一切及ばないことである。
だからこそ多少突っ込んだ製品検証ができると信じているのだが、此度の主役であるカクミルを手に取った印象は、「舞台を選ばない」ということだった。
E Inkは反応速度が遅いというが、筆者の感覚ではその部分はまったく苦にならない。単に「遅い」ということが分からないだけかもしれないが、メモとして文字を書く分にはしっかり機能している。複雑な絵を描くわけではないのだから、反応速度云々に関してはこれでも構わないのではと筆者は考える。
そして先述のように、E Inkのディスプレイは本体から電池を抜いても消えることはない。この部分はやはり、特筆すべき機能だ。「付箋のように使える電子メモ」の使い勝手は驚愕でもあるし、快感ですらある。画面も明るく見やすいものになっている。
ToDo機能、カレンダー、時計、電卓、アラームも搭載されているから、とりあえずこれ1台あればディスク周りの役割は任せられそうだ。
いや、何もワークディスクのみに置いてやる必要はない。自宅の台所にあるテーブルでも構わない。母親が子供に何かしらの書き置きをする場合も、カクミルは大活躍するはず。メモ自体にアラーム設定ができるから、重要な事案もカクミルに書いて保存できる。
そういう意味で、筆者は「カクミル=舞台を選ばない製品」という印象を抱いた。