人間は人間であり続ける限り、「書く」という行為からは逃れられないのかもしれない。
ふと、筆者は「人類最古の文字」について調べてみる。体系化された中で最も古いのは、紀元前3400年にまで遡るメソポタミア文明の楔形文字だそうだ。この楔形文字の筆記には粘土板が使われ、それを焼いて固めれば永久保存ができるという仕組みである。
文字は人類を劇的に進化させた。「情報を保存する」ということを実現させたからだ。文字がないうちは、どんなに素晴らしい技術のマニュアルもそれを記憶する人が死ねばリセットされてしまう。また、情報の伝達にも文字は大活躍した。口頭伝言という不正確な手段に頼っていては、どんな仕事も上手く行くはずがない。
21世紀を20年近く過ぎた現代においても、人類は「書く」行為を捨ててはいない。
付箋から始まったアイディア
今回の取材相手である東山慎司氏の勤め先は、日本を代表するオフィス用品企業キングジム。そう、言わずと知れたあのキングジムだ。東山氏はこの企業の商品開発部に所属している。
その東山氏は、業務上のちょっとしたメモ書きに付箋を利用していた。電話先の相手から聞いた住所、連絡事項、間近のスケジュール等を付箋に書き、それをPCに貼っていたそうである。どの会社にもよくある光景だ。
「ですが、それではいずれ剥がれ落ちてしまいます」
この辺り、多くの人が経験のあることだろう。そもそもの粘着力が弱い付箋だから、時間が経てば季節過ぎの桜の花びらのように舞い落ちる。
そこで東山氏は、付箋に代わるメモ用品を自分たちで作ってしまおうと考えた。液晶画面にタッチペンで文字を書き込む製品である。結果、開発されたのが卓上電子メモ『マメモ』だった。
3.08インチのタッチパネルに文字を書き込むことができ、時計やアラーム、ToDo機能も備えているマメモ。メモは最大99枚まで自動保存される。2010年8月の発売で今も市場流通しているから、その評判は上々だ。
「ですが、マメモには欠点があります。画面が若干暗いというのもあるのですが、電源をオフにすると書いた内容が消えてしまいます」
マメモは一定時間経過すると、省電力のために電源が落ちるよう設計されている。タッチペンで画面を触れば電源も書いた内容も回復されるのだが、要はこの手間が問題だと東山氏は語る。
「付箋は電源オフなどありませんから、いつどんな時でもそこに書いてある文字を確認することができます。一方、マメモは画面を触って表示を回復させる必要があります。たった一手間ですが、これは非常に大きなものです」