刑事は刑事ドラマをどんな思いで見ているのだろうか。元刑事で現在は経営コンサルタントをしている森透匡氏に、刑事ドラマのありえないシーンベスト5や、刑事ドラマと刑事との関係を聞いた。
刑事ドラマで「現実ではありえない」と思うことベスト5
元刑事である森氏は、かつて詐欺、横領、贈収賄事件などの知能・経済犯を担当する刑事を約20年経験したことがある。そんな森氏にとって、刑事ドラマはどのように映るのか。特に「現実ではありえない」と思うことのベスト5を教えてもらった。
1.薬物(シャブ)のガサ入れで発見したものを指先につけて舐め「シャブだな」と断言する
「そもそも薬物を舐めた時点で『薬物の使用』になるので使用罪に問われます。従って薬物を舐めたことのある刑事は絶対にいませんし、舐めることで薬物の種類を断言することはできません。ましてなんだかわからない薬物を直接舐めるのは極めて危険な行為です」
2.逮捕現場が崖の上
「サスペンスドラマでは犯人追及と逮捕の場面がいつも“断崖絶壁の崖の上”というケースがありますが、これはまずありえないこと。そもそも何故、崖の上に関係者が集結するのか意味がわかりませんし、自殺・逃走事故防止の観点からも、崖の上に上がる前に逮捕するのが普通です。危険極まりないのでわざわざ崖の上で逮捕はしません」
3.屋台で事件の話しをしながら酒を飲む
「そもそも屋台で酒を飲むこともそうそうないですし、店主がすぐ目の前にいるにもかかわらず、秘密の捜査状況を話すこともありえません。基本的に事件の話をするときは個室だったり、ひそひそ話をしたりして外部に漏れないようにするのが普通です」
4.勤務時間に警察署の署長室の扉が閉めてある
「刑事ドラマの中で署長室に部下がノックをして扉を開けて入る場面がありますが、署長室は誰でも入りやすいように常に開放状態にしておくことが原則であり、扉を閉めておくことはありません。また高層階の警察署では上の階に署長室があることがありますが、署長室は全国どこの署も一階の奥と決まっています。これは最高指揮官が現場に一番近いところで指揮をとるという意味があるからです」
5.殺人事件現場に複数の刑事が白手袋だけして入り、死体を観察する
「殺人事件の場合にはそもそも現場に入る人間は厳格に規制され、いつ誰がどんな格好でどこまで入り、何を触ったかをチェックするようになっています。幹部であっても安易に現場に入ることができません。これは何よりも現場保存が最優先で現場を荒らされないためです。現場に入る際もスーツ姿では入ることはできず、スーツの上からビニールの足袋やビニールキャップを被って入ります。これは頭髪や陰毛が現場に落ちないための配慮です」
ちなみにランク外ではあるものの、森氏は次のことも気になっているようだ。
●警察犬だからといってすべての犬が人を襲うわけではない
「刑事ドラマで鑑識活動の犬が犯人を発見して噛みついたり、攻撃したりする場面がありますがこれもありえないです。警察犬はそもそも攻撃的な犬を従順に命令に従うように、そして鑑識活動中に人に噛みついたり、襲ったりしないように教育しているからです。従って、いきなり『襲え!』と命令しても襲うとは限りません。警察犬にも種類があり、襲うように教育している犬だけが人に噛みつくのです」