低価格路線の「マーティン・ジェットパック」
もし、「見てくれは気にしないから、もっと安価なジェットパックを」とお望みなら、ニュージーランドのマーティン・ジェットパック社の「マーティン・ジェットパック」がおすすめだ。
「ジェット」とは言っても、推力は2基のダクテッドファン(円筒形内のプロペラ)で得るが、時速40kmで15~20kmの距離を飛べ、滞空時間は30分近くという本格派(「ダイダロス」は数分しか飛べない)。そして、価格は米ドルで25万ドル(約275万円)。
「低価格」が魅力の「マーティン・ジェットパック」(画像:Martin Jetpack)
メーカーが第一に想定するのは、警察署や消防署といった公的機関による緊急時の利用だが、2020年には私的レクリエーション向けの仕様も出す予定。そのモデルはさらに低価格になるかもしれない。
反面、不安なのは同社の経営状態。創業者は、30年以上をこの機体の開発に費やしてリタイアしており、その間に大口の買い手が見つかっていない。そして、累計1億ドルもの融資・投資を返せるのか財務面の懸念が大きく、証券取引所の株価は1.8セントまで落ちている。今後近いうちに、政府機関からまとまった機数の注文があるか否かが、2020年のパーソナル向けモデル登場の成否のカギとなるだろう。
最もリーズナブルな価格?「フライボード・エアー」
長い開発期間と試作を経て誕生したザパタ社の「フライボード・エアー」は、価格は非公開ながら、最も安いのではないかと噂されるジェットパックだ。
本機の場合、背中には燃料の入ったバックパック以外に何も乗せない。その代わり、ミニタービンエンジンを複数装備した「架台」に両足を乗せる。そして、片手に持ったリモコンで飛行中の動きを制御する。見た目はすっきりしており、飛行中の爽快感は格別に思える(乗っている当人はハラハラしているかもしれないが)。
飛行中の爽快感は格別(?)な「フライボード・エアー」(画像:Zapata)
「フライボード・エアー」は「直観的なコントロール」を標榜し、「トレーニングなしで飛行するように設計」されているという。そのため、ほかのジェットパックと違い、「Amazonでポチって、翌日届いてすぐ使える製品」に一番近いところにある。
ただ、航空法や交通法など、(国によって厳しい・緩いの差はあれ)いくつもの法的な規制が引っかかるので、この問題をクリアしてからの話になる。実際、ザパタ社は法令上の障害に直面しており、まず軍用仕様のプロジェクトに力を入れているのはそのためだろう。
ところで、日本でこうした製品が流行する可能性が近い将来あるかといえば、ちょっと厳しいだろう。まず法的な規制の問題があり、購入金額やランニングコストの高さもある。「ドローン特区」があるように、「ジェットパック特区」を自治体が設け、提携遊園地など特定エリアで飛べるというふうにすれば、一つの突破口にはなるかもしれない。そして、より現実的なのは、津波・洪水災害時の救援や軽量物資の緊急配送としての活用。ヘリコプターの補助的な役目で、「痒い所に手が届く」使い勝手が評価されれば、そこから娯楽用へと広がってゆく可能性はある。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)