熊本のお正月は赤酒で始まる
熊本における赤酒は、お正月の必須アイテムとしても名を馳せる。お屠蘇として飲むためだ。12月中旬になると、どこのお店にも赤酒が大量に並ぶのがお約束。それもお屠蘇用としてこの時期だけは屠蘇酸(数種類の生薬を配合したもの)付きで販売され、赤酒に溶かし数時間おいたものをいただくのだ。
えっ、そんな甘いものを飲むの? と驚く人もいるだろう。
実は筆者も初めて熊本でお屠蘇を飲んだときは仰天した。お屠蘇=日本酒と思っていたからだ。
「な、なんですか、この甘い飲み物は!?」
声をあげると、
「東肥の赤酒ば、知らんと?」
逆に驚かれた。
それもそのはず、お屠蘇とは本来、日本酒やみりんに屠蘇酸を漬けた薬酒のことを指すもので、熊本では赤酒を使うのは当たり前のことだったからだ。
熊本と赤酒の関係
では、なぜこれほど熊本で赤酒がメジャーなのか。「東肥の赤酒」の蔵元、瑞鷹の吉村謙太郎さんによると、藩政時代の熊本(肥後細川藩)までさかのぼる。
「当時、赤酒は御国酒として愛飲され、他藩で造られたお酒は旅酒と呼び流入を禁止していたのです」
というと、いやいや熊本には球磨焼酎もあっただろうと思う方もいるだろうが、同じ熊本でもあちらは相良藩。さらに南に行けば島津藩の芋焼酎があり、それぞれの酒文化が今に伝わったというわけだ。
「赤酒と日本酒は基本的に作り方は一緒です。米と米麹に酵母を入れ、アルコール発酵させ搾る。その後火入れ殺菌するのが日本酒ですが、赤酒は強アルカリの木灰を入れて発酵を止めます。さらに言うと、赤酒は吟醸造りをしないという特長があります」
結果、甘くてトロっとした味わいとなり、アルコール度12%とは思えないほどのまろやかさが生まれる。
プロの料理人の間で赤酒が話題になり始めたのは、昭和32年頃から。大阪の著名な調理人が絶賛し、大阪や東京で紹介し始めたことがきっかけという。以来、一般消費者にもこだわりの料理酒として少しずつ広まりつつある。