■日本仕様は解像度が高く透明感のある音
それでは同じACアダプターを使って『FX502S PRO』と『FX502J-S』を聞きくらべてみよう。価格は約8000円でほぼ同じだが、中国仕様はACアダプターが付属するので2000円ぐらいハイコスパになる計算だ。ちなみに『FX502J-S』は2018年6月に発売されたばかりの新製品で、TIの「TPA3250」と呼ばれる次世代デジタルアンプICを搭載している。また、前段のバッファー回路には「NE5532」というオーディオ用オペアンプを採用する。出力段のローパスフィルターには空芯コイルとPILKORのメタライズドフィルムコンデンサーを使っている。これ以外にも保護回路を搭載するなど、U1万円とは思えないこだわりにあふれた製品である。
まず、『FX502S PRO』の音を純正のACアダプターを使って聞いてみる。DACはリファレンスのResonessence Labs『INVICTA MIRUS』を使用、スピーカーは『Ishida model』を使っている。試聴曲はYuji Ohno & Lupintic Five with Friends「BUONO!! BUONO!!/THEME FROM LUPIN III 2015〜ITALIAN BLUE ver」(48kHz/24bit)と手嶌葵「明日への手紙(ドラマバージョン)」(96kHz/24bit)を選択。LUPINはホットな演奏でスピード感がある。ドライブ感があってパワフルだ。これは予想以上に高音質だ。クラスDというと硬い音を想起するが、全くそんな事はなかった。明日への手紙では音の粒立ちが良く、音像定位がシャープで音離れがいい。ボーカルの質感がややザラザラしているのが気になった。
同じACアダプターを使って、今度は『FX502J-S』を聞く。明らかに音が違う。LUPINでは低域の量感が増えた。ウッドベースの低域が強く前に出る。音の厚みが増している。手嶌葵は、情報量が増えて、より細かい音が聞こえる。かすれた感じがなくなり、なめかで瑞々しい音だ。こちらの方が好ましい。
フタを開けてみると基板上に異なる種類のコンデンサーが使われている。左が日本仕様、右が中国仕様だ。基板のバージョン表示も白い方が新しい。
■オペアンプを交換して音質を追求
高級アンプと言えば、フルディスクリートがうたい文句だったが、現在は高性能なオペアンプが存在するため、これを使わない手はない。オペアンプを使って、それ以外の回路がディスクリートであると主張するメーカーもあるが、そこまでいくとディスクリートの定義が曖昧になる。とにかくハイエンド製品にもオペアンプは使われているのだ。そして、これを差し換えるだけで音質が大幅に変化する。その互換性は真空管よりもずっと自由度が高く、ざっくり言えば2回路入りと1回路入りの違いがあるだけ。あとは足が8本あれば差し替え可能だ。発振する場合もあるが、差し込む向きを間違えなければオペアンプが壊れることはない。
『FX502J-S』に使われるオペアンプはTIの「NE5532」で、贅沢にも左右独立で使っているので、交換用のオペアンプは2個必要になる。交換するならアナログデバイセスの「OP275」か、BBの「OPA2134」だろうか。手持ちにある「LME49860」に交換してみた。LUPINでは細かい響きが再現され演奏のニュアンスが伝わってくる。サックスはややザラザラしてくる。ボーカルは細身に聞こえる。ここで新日本無線の「MUSE 01」と「MUSE 02」を投入してみよう。01はJ-FETを使用、02はバイポーラを使った2回路入り高音質オペアンプである。01は3500円(税込)、02は3400円(税込)と超高級オペアンプなので2個交換すると、アンプ本体の価格に近付くという恐ろしくアンバランスな製品だ。ちなみに「NE5532」は1個190円である。という先入観を捨てて聞くと『FX502J-S』に合うのは「MUSE 01」だった。ダイナミックでメリハリのある音。ハイスピードでキレがあるが、ボーカルは硬質にならない。
『FX502J-S』はオペアンプ差し換え可能なモデルだ。2回路入りのオペアンプ2個を交換して音質の変化を楽しめる。ただしオペアンプを交換すると保証対象外となる。