2018年のNHK大河ドラマは『西郷どん』である。舞台は19世紀中ば、日本では「幕末」と呼ばれる時代である。
当時、ある技術革新が起きていたのをご存じだろうか? それは「武器の進化」である。徳川幕府は2世紀以上に及ぶ無風状態の平和を構築したが、その代償として武器の新開発を放棄した。結果、ペリーの黒船を始めとする諸外国からの圧力に対して先手を打つことができなかった。
しかし、日本各地の諸大名全員が事態を傍観していたわけではない。『西郷どん』でも渡辺謙演じる島津斉彬が、欧米列強に対抗するために新式武器の開発に乗り出す場面が描かれている。
その中でも、兵隊ひとりひとりが手にする銃は幕末期に格段の進化を遂げた。今回の記事では、大河ドラマを100倍楽しく観る方法として「幕末期の銃の進化」を追っていこう。
■雷管で発火するゲベール銃
この記事を書くに当たり、東京・上野に本店を置く古式銃販売店『シカゴレジメンタルス』にご協力をお願いした。
日本の銃刀法で規定されている古式銃や無可動実銃を取り扱っている業者だが、その中には19世紀中ばに出回っていた小銃もある。日本でも、こうした銃の購入と所持が可能だ。
さて、徳川時代の日本は対外戦争をすることなく、二百数十年にも及ぶ平和を享受していた。鄭成功の援軍要請や文化露寇といった事件はあったものの、ヨーロッパのように巨大な戦争へ国ごと巻き込まれるということはなかった。そのため、戦国時代から引き継いだ火縄銃を更新するという動きはなかなか起こらなかった。
火薬と球形の弾丸を別々に込め、火縄で火薬に着火するという方式の火縄銃。しかしペリー来航の少し前、アヘン戦争で清がイギリスに敗北したあたりから日本の各藩で新式銃の採用が始まる。
まず導入されたのはゲベール銃だ。
これは火縄ではなく、雷管で火薬に着火する方式のものである。いわゆる「管打式」と呼ばれるものだが、火縄銃と比べると進化しているのは着火機構のみである。ゲベール銃の銃身内部には旋条(ライフリング)がなく、弾丸もまだ球形だ。銃身の先端から火薬と球を込めるという仕組みも、火縄銃と変わらない。
これが日本に大量輸入され、また日本国内でも独自生産されていた。