■連載/阿部純子のトレンド探検隊
◆太極拳と医療的エビデンスをもとに開発されたメディカルタイチ
太極拳というと、中国で年配者が愛好する体操のようなものというイメージが強いが、近年、太極拳の医療効果は「動く医薬」(medication in motion)とハーバード大学医学部から研究発表され、高齢者施設への導入や、太極拳(英語ではタイチ)をエクササイズメソッドにした「タイチエクササイズ」が欧米やオーストラリアでブームになっている。
日本での太極拳の愛好者は150万人ほどだが、型を覚えることが主流で理論的な部分はあまり追求されていなかった。しかし欧米で医学的根拠に基づく太極拳がクローズアップされる中で、日本でも太極拳をベースに、医学的なエビデンスに基づいて開発された運動メソッド「メディカルタイチ」が、健康、美容、ダイエットの面から、ヨガに続くネクストエクササイズとして注目されている。
メディカルタイチを実践している「タイチスタジオ」では、白澤抗加齢医学研究所の白澤 卓二医師、国際医療福祉大学の和田 秀樹医師など数々の医療機関と連携し、効果が実証されたプログラムを提供している。
太極拳の特徴である体重移動を伴った流れるような動きの中で、多くの関節と筋肉を同時に動かす、感覚器官を働かせる、心肺機能を高める有酸素運動の3つの要素を取り入れたオリジナルプログラムで、内蔵の状態などを含め、体の中からトータル的にサポートをするレッスン内容になっている。
太極拳世界チャンピオンといった伝統的な太極拳を実践する選手が講師陣として所属しており、今回メディカルタイチをレクチャーしていただいた市来崎 大祐さんは、6歳から武術太極拳「長拳」を始めて、全日本武術太極拳選手権大会で長拳 6連覇を果たすなど、日本における武術太極拳のエースでもある。
「通常の筋力トレーニングでは鍛えにくい、瞬発力などに使うエキセントリックトレーニング(速筋強化)は、太極拳や日本舞踊のような中腰になる姿勢が効果的とされます。また、速筋は30代になると急激に衰えていくので、このトレーニングを使った太極拳は基礎代謝の向上にも効果的です。
ストレッチやヨガの場合、一つの方向に伸ばす運動が多いですが、太極拳の動きは3Dムービング。さらに陰陽マークに象徴されているような、ワンポーズで終わらず循環しながら、常に動き続けるのが太極拳の大きな特徴といえます。太極拳は円の運動、腰の回転もありいろいろな方向に3次元に動くので、全身をまんべんなく動かすことができて、体への負担も少ない。一方向で止める動きの場合、とくに高齢者には負荷が大きくなりますが、人間の関節は円運動ができる仕組みになっているので、呼吸とともに軽負荷で少しずつゆっくり動き続けることで、負荷をかけずに運動を行うことができます」(市来崎さん)