少子高齢化と人口の首都圏一極集中は、日本人の葬儀事情にも影響を及ぼしているようだ。人口減少が進む地方では”墓じまい”が、反対に首都圏では納骨堂が増えている。
厚生労働省が発表した衛生行政報告によると、東京都内の納骨堂は10年前の316か所から平成28年度末時点で405か所にまで増加した。
日本人の価値観が変容したことも、“墓離れ”の一因だ。家族よりも個の幸せを重視する人が増え、独身者の増加や死後離婚も頻繁にメディアで取り上げられている。
現代に生きる日本人にとって、お墓やお葬式はどのような存在に変わりつつあるのだろうか?
東京・蔵前で550年続く満照山 眞敬寺(まんしょうざん・しんきょうじ)第17世住職の釋朋宣(しゃくほうせん)氏に、葬祭市場の現状と今後の見通しについて伺った。
■地方への墓参りが難しいという理由で都会に納骨堂を購入する人が増えている
地方から都会に移り住んだ人にとって、墓参りは大変な労力がかかる。多忙な現役世代はもちろん、高齢になると体力的な理由で困難になることも多い。
住職によると、交通のアクセスがよく天候・気候に左右されないという理由で納骨堂の人気が高まっているそうだ。
「当山にご縁をいただく方の中にも、地方で墓じまいをされた方がいらっしゃいます。たとえば、仕事の都合で東京へ住まいを移し、子どもたちも東京で暮らしているというパターンなど、首都圏に住んでいる高齢者にとっては、地方への墓参りは負担がとても大きくなっています。
また、地元に住んでいる高齢の両親が亡くなった際に、納骨だけ東京で行う(改葬)という方も最近かなり増えてきました。
昔はドーナツ化現象といって、都心より郊外へ人口が集まっていました。しかし、最近は高齢化が進み、かつて郊外に住んでいた方も通院や入院の都合で交通のアクセスが良い都心部に住むケースが増えています。これも、納骨堂の人気が高まっている一因です。
また、室内にあるため天候や気候に左右されず、草むしりなどの作業が必要ないというメリットもあります。当山では“室内墓所”と呼んでいるのですが、雨の日でもバリアフリーの建物の中で快適に墓参りできるのが、選ばれる大きな理由かと思います」
納骨堂自体は昔から存在していたが、その多くは簡素なロッカー型だった。しかし最近では、まるでSF映画を彷彿させるような近未来的でスタイリッシュな設計の“ハイテク納骨堂”も登場、注目を集めている。
たとえば、名古屋市の万松寺・水晶殿や東京都新宿区の幸国寺・琉璃殿はLED照明が光り輝く幻想的な建築だ。
眞敬寺が2017年秋に浅草・上野エリアに設立した蔵前陵苑(くらまえりょうえん)は、木を基調とした癒しの空間作りにこだわったという。
いずれも、ICカード一枚でいつでも気軽に墓参りできるようになっている。