■意外と知らない日本料理マナー
その他にも、意外と知られていない日本料理のマナーがある。西出氏に教えてもらった。
●日本料理の器は重ねてはいけない
日本料理の器は、食べ終わっても重ねない。なぜなら、日本料理の器は塗り物や漆器、陶器、磁器などデリケートな素材のものが多いため、むやみに重ねると傷をつける可能性もあるためだ。
●「高いところ」「手前」から美しさを崩さないように食べる
高く盛り付けられたものは、上の高いところから食べる。そして広く盛り付けられたものは、左手前から時計回りに食べる。いずれも日本料理が目で見て楽しむ料理でもあることから“美しさを損ねないように”食べるという考え方にもとづくものだ。
●食べる順番に気を付ける
懐石料理の場合、最初にごはんと汁物が出てくるため、箸をはじめに湿らせる意味で汁からいただくのが基本。会席料理では、まず酒の肴がでてきて、ごはんと汁物は最後に出てくる。このときはすでに箸は他の料理で使用しているため湿っていることから、ごはんと汁物のどちらから先に食べてもよいそうだ。
ちなみに会席料理では、ごはんと汁物を食べる前に「香の物」、いわゆる漬物を先に食べると、「これまでの食事が美味しくなかった」というサインになるので注意したい。ちなみに香の物をごはんの上にのせて食べるのはマナー違反。
●茶碗蒸しは「混ぜて飲む」という説も
寿司屋や会席料理、懐石料理のお膳などには茶碗蒸しもよくあるが、茶碗蒸しは、お吸い物、汁物の一種であるため、「飲む」のが正解という説もあるそうだ。西出氏は次のように話す。
「まだスプーンがない頃、お箸だけで食べるときには、食べにくいということもあり、箸で混ぜて、茶わんに口をつけて飲むように食べていました。また、もともと汁ものですから、このようなことから茶碗蒸しは『食べる』ではなく『飲む』という、ともいわれています。ただし、混ぜるときに、音を立てながらぐちゃぐちゃにしている様子を同席者などの他人が不快に感じこともかもしれませんので、音をたてずに、程よく混ぜる程度で召し上がるとよいでしょう。現代では、茶碗蒸しにはほとんどスプーンがついていますので、最初にスプーンで碗の内側についている茶碗蒸しをはがし、その後、混ぜてスプーンにすくって食べてもいいです」
意外と知らない日本料理のマナー。ちょっとしたことだが、このちょっとしたことができるかどうかで共に食事をする相手や店の人からの評価に大きな差が生まれることもありそうだ。
しかし、西出氏は「食べ方のマナーで大切なことは、作り手やお店側に食べて欲しいスタイルがあればその食べ方をすること」だと話す。また現代では作り手やお店側は、自由に好きなスタイルで食べてほしいという考え方も多いため、「自分好みに食べる」ということがマナーであるともいえるようだ。
取材協力
西出ひろ子氏
マナーコンサルタント。マナーは互いが幸せになるために在るとし、互いの立場に立って思いやる心が本来のマナーと説くマナー界のカリスマ。一流企業でのマナーコンサルティングやNHK大河ドラマや映画のマナー指導、テレビ番組などの監修も務める。俳優や女優、タレントなどへのマナー指導にも定評がある。著書に「かつてない結果を導く 超『接待』術」(青春出版社)などマナー本は国内外で80冊以上。最新刊に「ビジネスでもプライベートでも知っておきたいマナーの基本」(マイナビ出版)
取材・文/石原亜香利