■連載/ペットゥモロー通信
「動物行動学」で明らかになる猫の世界
私たち人間が猫たちと仲良くできること、当たり前のように思っていませんか? ノラ猫とは街中でもよく遭遇しますし、ちょっと足をのばせば猫カフェで好きなだけ推し猫とたわむれることができる現代。でも実は、それってすごく奇跡的なことなんです……!
そんなことに改めて気づかせてくれるのが、イギリスの動物学者ジョン・ブラッドショー博士の著書『猫的感覚――動物行動学が教えるネコの心理』(早川書房)。世界でも珍しいイエネコの研究で数多くの論文を発表している著者が、「動物行動学」の観点から人間と猫の歴史をひもといたものです。アメリカでは「ニューヨーク・タイムズ」紙でベストセラーになり、NPRブック・オブ・ザ・イヤーも受賞しています。
ジョン・ブラッドショー/羽田詩津子訳『猫的感覚――動物行動学が教えるネコの心理』
猫が私たちと暮らしを共にするまでには、悲しい歴史が
犬は、番犬になったり人間の狩りのお供をしたりと、生まれ持った社会性から人間たちの生活をサポートするための資質を磨かれ、さまざまな犬種が生み出されてきました。でも、集団生活よりも単独で行動する性質がある猫は、人間とも主従関係を結びません。せいぜい米を食い荒らすネズミを捕ってくれるくらい。それでも人間は彼らをパートナーとして選びました。しかも純血種の猫たちは、人間の役に立つというよりもその愛らしい「見た目」だけで選ばれてきたところがあるのです。
最近はめったに聞かないと思いますが、子供の頃に「黒猫を見ると不吉なことが起こる」なんて、見聞きしたことがある方もいるのではないでしょうか。実はそんな迷信には、人間と猫との悲しい歴史もあったようです。
猫が人間と一緒に暮らすようになったのはおよそ1万年前からだと言われていますが、日本では鎌倉時代だった1232年、ローマ教皇が大勅書『ラマの声(Vox in Rama)』で「猫、とりわけ黒猫の正体は悪魔だ」と記述。それから300年以上に渡って何百万匹もの猫が虐殺され、猫を飼っていた何十万人もの女性が「魔女」の疑いをかけられたのです。
さらに遡れば紀元前、エジプトではたくさんの猫が「聖なる動物」として生け贄にされたりミイラにされたりして、人間の墓に埋葬されたといいます。神格化して猫を大切にするあまり、猫を殺すと死刑になったり、飼い猫が自然死すると家族全員が眉毛を剃って喪に服す習慣もあったのだとか。神様にされたり悪魔にされたりと、猫たちも大変ですよね。
そして近年、猫たちの生活はさらに激変しているのです。いつしかネズミを狩ることが人間の気分を害するようになり、彼らの「室内飼い」が奨励されるようになったのは、ここ10年20年の話。人間たちと暮らす人懐こい猫たちのほとんどが避妊・去勢手術をされ、人に強い警戒心を抱くノラ猫ほど繁殖を続けている現状から、人間と一緒に暮らす資質を備えた猫たちが減少していくのではないかという懸念も、ジョン・ブラッドショー博士は訴えています。