■連載/鈴木拓也のクラウドファンディング・ウォッチャー
「運動不足の弊害は、耳にタコができるほど聞かされているけれど、デスクから離れられない!」という、多忙なビジネスパーソン向けに、夢のような運動器具が開発された―その名は『HOVR』(ホバー)。昨年、米国のクラウドファンディングIndiegogoで商品化に成功し、現在は日本のクラウドファンディングMakuakeで支援者を募集しており、ゆくゆくは国内で広く市販することが予定されている。
見た目は写真のとおり。椅子の前に据え置き、足をそれぞれの円盤の上に乗せるだけ。両足を乗せたときに不安定さを感じるが、これが本製品のキモ。そのつもりがなくとも、自然に足が動いてしまう。むしろ動かさないようにするほうが難しく、左足が前に動いたときは右足が後ろへ、右足が前に動いたときは左足が後ろに動く前後運動で、はたから見れば座りながらウォーキングをしているように見える。
実際、『HOVR』を使うとウォーキングと同様の運動効果が得られ、ほんの10分間の使用でも、足先の抹消循環が改善されることが確認されている。開発者によると、1日5時間のデスクワークで30分のウォーキングをしたのと同じ運動量になり、毎日の継続で筋量増加・基礎代謝向上が見込めるという。
『HOVR』の使用動画(提供:HOVR Japan)
エアロバイクのような運動装置と大きく異なるのは、自発的に足を動かす必要がないので、運動へのモチベーションが全くわかなくとも、運動できしてしまう点だろう。慣れると「運動している」という意識すらなくなるので、集中力が散漫になって肝心のデスクワークがおろそかになってしまう心配もないという。これを科学的に検証するため、複雑な課題を解く能力を測るストループテストを、「『HOVR』あり」と「『HOVR』なし(普通に座る)」の状態で実施したところ、「『HOVR』あり」でもテストの成績はほとんど変化せず、『HOVR』が頭脳労働の妨げとはならないことが分かっている。また、自然と正しい座り姿勢になる、姿勢矯正効果もあるとしている。
開発者である理学療法士のロン・モチズキとトレーナーのジョン・ゴドイによれば、『HOVR』開発のきっかけは、「多くの人が仕事などの生活環境が原因で運動できない」ことを実感したことであり、本来はデスクワーカーを念頭に開発された。高齢化が進む日本では、デスクワーカーのみならず、高齢者向けのリハビリ施設での利用など、ロコモティブシンドロームが危惧される層のニーズもあり、より広い利用者が期待できるとしている。
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社の役員をスピンオフして、フリーライター兼ボードゲーム制作者に。英語圏のトレンドやプロダクトを紹介するのが得意。
※記事内のデータ等については取材時のものです。