「なぜ私が睡眠の大切さを繰り返し申し上げるか。それは、人は睡眠しなくては生きていけないからです。時間管理術のなかには睡眠の大切さを説くものもありますが、プライオリティは高くない印象です。しかし、インターネットやパソコンなどの普及により、いつでもどこでも仕事ができるようになる一方で、結局は自分の時間が削られている。そこで犠牲になっているもののひとつが睡眠です。よって、睡眠をとることを強く訴えないと、なかなか伝わらない。『自律神経が整う時間コントロール術』(小学館刊)」では、その点を強調しています」
自律神経の専門家である順天堂大学医学部・小林弘幸教授は、上述のとおり自著『自律神経を整える時間コントロール術』で、睡眠の大切さを繰り返し強調する。そしてビジネスパーソンは、週1度は早く帰宅し、ゆっくりと寝る「睡眠の日」の確保せよと提唱する。
「週1度は、寝る3時間前に食事を済ませ(理由はこちら)、22時には寝てください。この22時から翌2時までの間は、1日の中で副交感神経が最も優位になる時間帯です。この時間は、体を休める静のゴールデンタイム。起きているうちに食べ物が栄養として吸収されるほか、腸が蠕動(ぜんどう)運動をする際に“幸せのホルモン”と呼ばれるセロトニンも分泌されます。このセロトニンは脳内の神経伝達物質として知られていますが、実は95%は腸で作られています。
このセロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンを作る働きをするため睡眠の質に大きく影響しますし、不足すると精神的に不安定になるとされています。余談ですが、ペットと触れ合うことで癒やされたり、気分が明るくなったりするアニマルセラピー。最近では医療や介護の現場でも動物が持つ癒やしの力を取り入れる動きが出てきています。動物が無邪気にじゃれてきたりすると、私たちはかわいいと感じ、とてもリラックスしてきます。すると呼吸が自然と深くなり、副交感神経の働きが高まります。このときセロトニンが分泌され、イライラや落ち込んだ感情も和らげてくれるといわれています」(小林さん)
副交感神経が最も優位になる22時から翌2時にきちんと寝られるようにすると、生活の質が格段に向上するという。その効果は、朝の目覚めの良さになって現れるそうだ。
「きちんと睡眠を取り、自律神経のバランスが整い、体のリズムが調整されると、朝自然と交感神経が優位になってすっきりと目覚められるようになります。そして朝起きたときからしばらくの間は、もっとも自律神経のバランスが整った良い時間。この時間を大切にして欲しいですね」(小林さん)
朝の時間帯は自律神経のバランスが整い、クリエイティブな活動に適した“動のゴールデンタイム”。詳しくは次回触れるが、この“動のゴールデンタイム”の質を高めるのは、睡眠の取り方次第。1日の間に最も副交感神経が優位になる22時から翌2時に、しっかりと睡眠時間を取ることが肝要といえる。