医者だって人間。どんなに気をつけていても、病気になることはある。しかし、もし医者ががんになったとき、私たちとは違う治療を受けるとしたら、あなたは何を思うだろうか? 怒り狂いたくなっても、まずは落ち着いて、その理由を知ろう。
『医者は自分や家族ががんになったとき、どんな治療をするのか』(アスコム)は、医者ががんになったときに選択する治療法を通して、自分に合った治療や自分に合った行き方を選択できるようにすることの大切さを考えさせる一冊である。
がんのような生命に関わる病気の治療に関する書を読むたびに個人的に思うのが、患者も病気や治療法に関してある程度の知識が必要だということ。でないと、自分と合う医者、信頼できる医者かどうかが見抜くことができず、医者の治療方針を丸呑みせざるを得なくなることになりかねないからだ。知識がないばかりに、「自分には合わない」「信頼できない」と気づくのが遅れたら、不幸だと言わざるを得ない。自分の人生は最後まで自分で責任を持ちたいなら、このような事態に陥ることを望まないはずである。
本書に込めた著者のメッセージは、「がんは生命や人生に関わる病気であり、医者任せにするものではない」。より良く生きるためには、病気との向き合い方に主体性が問われる。
■抗がん剤の限界
がんの治療で思い浮かぶものといえば、化学療法(抗がん剤、ホルモン剤など)、外科手術、放射線療法の三大療法だろう。このうち抗がん剤については、驚くことに本書では、医者は自身や家族ががんになったとき、抗がん剤を使いたがらないという現実を指摘している。それは、抗がん剤ではがんは治らないと思っているためだ。
医者である著者も、「抗がん剤で治せるがんは限られており、リバウンドなどの『限界』もあります、医者たちが『抗がん剤では、がんは治らない』と考えてしまうのも、仕方ないかもしれません」(第1章 p25)と、抗がん剤の限界を認めている。「なのに」というか「だから」というか、現実は、
「抗がん剤が実際に効くかどうかは、投与してみなければわかりません。それぞれの抗がん剤が、どのような人、どのような状態のがんに効くかがわかれば、抗がん剤の効果はもっと高くなるはずです。しかし現時点ではそれはわかっておらず、ある意味ではやみくもに抗がん剤を投与しているのです」(第1章 p23)
といった具合。医者を全面的に信頼して治療を受け入れるのが怖くなり、背筋がゾッとしてくる。
■切られ損になることもある手術
ならば、外科手術はどうかといえば、外科医も外科手術の限界を知っており、場合によっては自身や家族ががんになったとき、手術を拒否するケースがあるという。そのことを本書では事例で紹介しているが、怖いのは後遺症。次のように言及している。
「まず身体に傷が残りますし、がんの種類や進行状況によっては、せっかく手術をしても『がん細胞を取り残す』可能性があります。また手術や全身麻酔は患者さんの身体に大きな負担をかけ、体力を消耗させ、ストレスによって免疫力が低下するおそれがあります。肺炎や出血、縫合不全、肝臓・腎臓・心臓の障害、感染症などといった合併症や、後遺症のリスクも避けられません」(第2章 p64)
がんと診断されたとき、日本では外科医ががん治療全体を担当することが多いことから、最初に外科手術をすすめられることが少なくない。しかし、後遺症からもわかるように、外科手術は必ずしもベストな選択ではなく、後遺症についても事前にすべて、丁寧に説明しているわけではない。
また、手術が切られ損で終わることも。本書には、進行した咽頭がんの患者が、主治医から外科手術をすすめられて咽頭を全摘し、あとで化学療法の存在を知って後悔するというケースも少なくない、という記述があるが、このような切られ損は、患者のQOLを奪い不幸にするだけだ。
切られ損を防ぐためには、著者は医者、患者それぞれに、すべきことがあると指摘する。それは次の通りだ。
「医者は、たとえ『外科手術の方が確実に治せる』『できるだけ切っておいた方が安心だ』と思ったとしても、ほかに可能性があるならば、きちんと患者さんにそれを提示し、メリットとデメリットを説明するべきです。
また『切られ損』を防ぐためには、患者さんもセカンドオピニオンを受けるなりしてしっかり情報を集めたうえで、治療方法を選択した方がいいでしょう」(第2章 71ページ)
医者は患者の病気を治すことに全力を挙げるが普通である。しかし、病気を治すには、患者も全力を挙げないとダメなのだ。家族の協力を得ながら、自分に合う医者や治療法を探す努力を惜しんではいけない。