マサチューセッツ工科大学とハーバード大学からなるブロード研究所(遺伝子医学)の研究チームは、人、犬、マウスにおける強迫神経症に関連する608個の遺伝子を同定し、さらに調べたところ、4つの遺伝子が人の強迫神経症に強く関連をもっていることがわかったそうだ(*1, 2)。
それらの遺伝子は脳の特定の伝達経路に作用し、たとえば「手を洗う」という行為を一回行えば、そこでその行為には「終了」とブレーキがかかるところ、遺伝子に変異があった場合、うまくブレーキがかからずに、何度も同じ行為を繰り返してしまうらしい。
とは言っても、遺伝子変異をもっているからといって、必ずしも発症するというわけではなく、その可能性が高くなるということのようだ。
この研究では、犬とマウスに関しては強迫神経症にもっとも強く関連する遺伝子について5つとあるが、データ的な細かい差異はともかく、研究者は、「犬は驚くほど人に似ている」と言っている。
犬の場合は、強迫性障害の発症頻度が他犬種に比べて高いとされるドーベルマン・ピンシャーを用いての研究もあったが、それではセロトニン受容体遺伝子座が強迫性障害の重症度に関連するという他、やはりいくつかの遺伝子の関与が考えられるとしていた(*3)。
いずれにしても、強い、もしくは長期にわたるストレスや不安、恐怖などが発症のきっかけになることがあるということは人でも犬でも同じで、もしそのような症状が見られ、心配な時には、専門的な治療を受けるとともに、ストレスや不安の原因を探り、可能な限り排除できるものは排除するよう努力することも大切となるだろう。
ちなみに、犬にとってストレスや不安になり得るというと、以下のようなものが考えられる。もちろん、以下のようなことをストレスと感じないタイプの犬もいることはご承知おきを。
- 散歩や運動不足。逆に過剰な運動。
- 人との接触が少ない。逆に過剰である。
- 飼い主の犬に接する不適切な態度(すぐに怒る、体罰虐待、荒々しい態度など)。
- 飼い主が変わった。
- 家族間にケンカが多い。
- 分離不安。
- 寝場所が落ち着けない。
- 引越し。
- 騒音。
- 狭い場所にずっと入れられっぱなしである。
- 同居犬や同居猫が増えた。
- 子どもが産まれた。
- 病気やケガによる痛み。など
なお、症状が見られる時には、飼い主としてはついイライラしてしまうかもしれないが、叱ったり、騒ぎ立てたりすると余計症状がひどくなってしまう可能性があるので、そのようなことは避け、犬にとって楽しいことや、おやつを詰めた犬用の知育玩具を与えるなど気を紛らわせてあげられるようなことをして過ごすのがいいのではないだろうか。
強迫神経症は遺伝子が関与しているとしても、症状を軽減させることもできれば、状況によっては悪化させてしまうこともある。早期に対処をすることはもちろん、ストレスサインにも早めに気づいてあげたいものである。
参考資料:
(*1)Integrating evolutionary and regulatory information with a multispecies approach implicates genes and pathways in obsessive-compulsive disorder / Hyun Ji Noh et al. / Nature Communications 8, Article number: 774(2017), doi:10.1038/s41467-017-00831-x
(*2)Search Of DNA In Dogs, Mice And People Finds 4 Genes Linked To OCD / npr
(*3)Genomic risk for severe canine compulsive disorder, a dog model of human OCD / Dodman, N. H. et al. / Int. J. Appl. Res. Vet. Med. 14, 1–18 (2016)
文/犬塚 凛
構成/ペットゥモロー編集部