年を重ねるにつれ外見を飾るだけでなく、生活道具の一つ一つにもこだわりたくなる。品質に優れ、手によくなじみ、一生モノの品として使えるのが錫(すず)の製品。陶器やガラス、銀などに比べるとマイナーな素材だが、高価に見合う価値がある。
特産品として知られる「大阪浪華錫器」をつくり続けている「大阪錫器株式会社」の商品を通して錫の世界を紹介する。
■金属の特性で、水やお酒がより美味しくなる!
錫の地金を溶かし、型に流した後、ロクロで削る。手仕事で丹念に仕上げていく。
隋や唐の時代に中国から伝来したといわれる錫器。公家社会で長く用いられ、その後、江戸時代に入ると一般庶民にも普及した。
江戸時代後期に起源を持つ「大阪錫器」は、現在国内に流通している錫器の6割強を生産している。厚生労働省より「現代の名工(卓越した技能者)」として表彰された代表・今井達昌氏をはじめ、鋳造やロクロなど各工程を担当する職人たちはトップレベルの技術を誇る。
「錫は金属にしてはやわらかく、温かい素材感があります。また、熱伝導率が高く、酒の燗などが早いですね」と今井氏。熱くなるのが早ければ、その逆もしかり。冷水をタンブラーに入れると一瞬に、驚くほどの早さで冷たくなった。お燗に適した素材ということで、チロリや徳利などの代表商品がつくられている。
「そして、錫は毒性を持たない金属です。水や酒の味がまろやかになります。錫のコップに水を入れて、冷蔵庫に置き、翌朝、飲むと味が全然違う。これは有名です」。錫の容器側に不要な成分が吸着するのだろうか。お酒の場合は、嫌な苦みや酸味もやわらぐという。