記者が何を選んだのかは察してほしいのだが、検査室に入ってから10分ほどでようやく重い腰を上げた。だがここで、ちょっと恥ずかしいことがあった。近頃のプレーヤーは、再生途中のシーンを記憶している。DVDを再生すると「ああ、前に使った人はここで事を終えたのか」というのが分かり、見たこともない方にちょっぴり気まずさをおぼえた。
チャプターをいくつか見ながら、どのシーンかを決定していよいよ事に及ぶ。最後はプラスチック製のケースに向けて射精するのだが、気持ち的にはなかば義務的に事を終える。最後の瞬間、わずかにむなしさが襲ってきたものの、妻ともども抱く不安が「少しでもやわらげば」と感じていた。
今回、記者が体験した病院は、始めの案内をのぞき誰とも会話を交わさずに行程を終えられたのがよかった。病院により対応は異なり、以前、聞いた話では容器だけ渡され「トイレであとは済ませてください」と、やや雑に扱われるところもあるという。
検査とはいえ、部屋を出て受け付けで「終わりました」なんて言いつつ容器を渡すのも、想像するだけで恥ずかしくなりそうだ。気にかかるならば事前に「検査室はありますか?」と尋ねるのもアリだろう。
さて、検査室内に精子を預けてから、1階の待合室へ降りて問診を終えた妻とふたたび合流した。その後、30分ほど経過してから診療室へ呼ばれた。入室後、医師から結果の書かれた「精液所見報告書」を渡されて説明を受ける。当初、後日改めて結果を伝えられるものだとも思っていたが、予想以上に早かった。
医師から伝えられた内容は、世界保健機関(WHO)による成人男性の基準値と照らし合わせて正常かどうかというものである。当日渡された用紙に記載されていた基準値は以下のとおりだ。
■WHOの基準値
液量:1.5ml 以上
濃度:15×10の6乗/ml 以上
運動率:40%以上
正常形態率:4%以上
白血球数:1.0×10の6乗/ml 未満
細かな数値は割愛するが、記者の結果はおおむね正常だった。ただ一点、液量がやや少なかったのだがこれは、日ごとの体調や前後の状況にもよるという説明も医師からあった。
ここでもし結果に異常がみられた場合は、タイミング療法や体外受精など、段階をふんで不妊治療が始まる。今回、記者の場合は正直ホッとしたというのが率直な感想である。子どもが欲しいと切に願いながらも、結果が伴わずズルズルと時間だけが過ぎていくというのは、やはり不安もよりいっそう大きくなる。ひとまず初めの段階として、数字で今の状態がはっきりと分かるのは安心感も生まれる。
最後に、今回お世話になった医師によれば、32歳である記者のような世代で病院へ足を運ぶというのは事例として少ないという。大まかではあるが、結婚から数年経過していたり、年齢層でいえば夫婦ともども35歳を超えたあたりからの来院者が多いという。
妊娠、出産というのは結婚式に続く夫婦の共同作業にも思える。不妊という語感はどうもうしろめたいイメージもあり、向き合うのはいささか不安も大きい。しかし、たがいの協力が必要なものでもあり、もし今子作りに悩んでいる方がいるならば、きちんとした病院を見きわめながらまずは検査から解決への1歩をふんでみるのもよいのではないだろうか。
取材・文/カネコシュウヘイ
※記事内のデータ等については取材時のものです。